LIFE STYLE | 2019/10/15

欧州最大級のテックイベント「BORDER SESSIONS」が東京初上陸!

今年10月5日、欧州最大規模で最先端の“社会実験場”といわれるテックイベント「BORDER SE...

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今年10月5日、欧州最大規模で最先端の“社会実験場”といわれるテックイベント「BORDER SESSIONS」が、東京・虎ノ門の新スポット「新虎ビレッジ」で開催された。

FINDERSではすでに過去、本場オランダで開催されている「BORDER SESSIONS」を報じている。

「オランダ版SXSW」ことボーダーセッションと、サステイナブル至上主義になったヨーロッパ【連載】オランダ発スロージャーナリズム(3)

「BORDER SESSIONS」は、オランダ第3の都市ハーグで毎年開催される国際イベントで、他国で開催されるのは東京が初だという。

当日は、優れたアイデアや最新のテクノロジーを駆使して社会課題を解決する、さまざまな事例が各国から結集。その一部をレポートしたい。

取材・文:庄司真美 写真:織田圭子

新しいアイデアやテクノロジーを人と社会に役立てるために

オープニングで登場したのは、「BORDER SESSIONS」ファウンダーのゲリット・ヤン氏。ヤン氏は、オランダで都市管理を手がけるコンサルティング会社を起業した後、同イベントを始動。技術、文学、哲学、デザイン、科学の分野で多くのパイオニアたちとネットワークを構築し、世界中のスタートアップに投資をする人物だ。来日するのはこれで2回目だというヤン氏。東京都心で開催できた感謝とともに、これまでの経緯を次のように述べた。

「多くのピッチコンテストのプレゼンでは、コーダーやデザイナーなどが成果を発表するだけで終わりがち。そこにはどうやって社会や人類に貢献していくかという深いストーリーが欠けていました。BORDER SESSIONSの立ち上げ当初は、どんな位置づけにするかわからず葛藤がありましたが、文学の知識とテクノロジーをかけあわせながら、これまで約5000人のスピーカーに登壇いただきました。来年8周年を迎えるにあたり、テクノロジーを駆使して、いかにサステイナブルな社会を作っていくかということをみんなで話し合っていきたい」(ヤン氏)

欧州最大規模を誇るテックイベント「BORDER SESSIONS」ファウンダーのゲリット・ヤン氏。

ファウンダーの挨拶を皮切りに、20分の持ち時間の中で、それぞれの取り組みについて興味深い先進的な事例が次々と発表された。以下より、その一部を紹介したい。

日本がグローバルなスタートアップを始めるのにいい理由は?

トップバッターとして登壇したのは、ヘルスケア器具を手がけるアメリカ資本のスタートアップ「Bisu」共同創始者で、グローバルにビジネスを展開するCEOのダニエル・マッグス氏。

Bisuの共同創始者で、CEOのダニエル・マッグス氏。

同社の主力プロダクトはカジュアルに使える尿検査器具(下の写真を参照)。プロダクトデザインは、日本人デザイナーによるもので、折り紙に見立てた三角形のスタイリッシュなフォルムが特徴。高感度センサー入りのチップの端にある白いパットが尿を吸収し、検知する仕組みだ。

この事業を日本で展開する意義について、マッグス氏は次のように語った。

「日本は多くの理由からスタートアップに理想的なところです。その点、アメリカの場合、特にLAなどは、アップルやグーグルといった大手企業に優秀な人材を持っていかれてしまうため、人を雇うにもとても競争が激しいという事情もあります。一方、日本にはクールですばらしいデザインがあるし、近くにある中国から安く部品を仕入れた上で、メイドインジャパンとして世界中に販売できるメリットがあります」(マッグス氏)

高齢化社会の日本も含め、先進国ほど糖尿病や腎臓病が増える傾向にあると説明するマッグス氏。そこで健康寿命を伸ばすことを目的に、医者や病気にかかる前に自宅で手軽に健康チェックできる尿検査器具を開発したという。

尿には日々の食生活や体調の影響が表れるため、栄養状態をはじめ、腎臓などのダメージ度合いやがんにかかるリスクチェック、妊娠検査もできる。それだけでなく、テスト結果に合わせて病気の予防や体調維持に活かせるガイドがあるのも大きな特徴だ。しかも、使う人に合わせてパーソナライズされたアドバイスが受けられるという。

「まずはテストするとき、糖質制限の有無、ランニングが日課であるかどうかなど、ライフスタイルや習慣について入力します。その人自身をよく知った上で、水分量が足りなければどれくらい水を飲めばいいのか。ゆっくり飲むのかどうか、マグネシウムが不足したら、具体的に何を食べたらいいか、個々に合ったアドバイスが受けられます」(マッグス氏)

一般家庭向け以外にも、企業とコラボレーションして赤ちゃんや介護用おむつに内蔵することも検討しているとマッグス氏。また、プロのスポーツチームとの契約についてもビジョンを示した。

実はマッグス氏はもともと弁護士であり、医療や検体分析の専門家ではないという。しかし、異ジャンルの人間だからこその強みについても最後に語った。

「医療現場にいる人は、病気や医療にばかり気をとられがちですが、私はそもそも異ジャンルの人間だからこそ、そこにはない視点であらゆるジャンルの人と手を組み、柔軟にプロダクトの可能性を広げられたのだと思います」(マッグス氏)

解像度の高い観察力で見えてくる、人のリアルな暮らし

日本人のスピーカーとして、無印良品で「ものを持たないくらし」というキャッチコピーを生んだ、建築家、住まいや暮らしに関する研究者、そしてコンサルタントである土谷貞雄氏が登壇。

建築家、住まいや暮らしに関するリサーチャーで、株式会社貞雄代表取締役の土谷貞雄氏。

土谷氏は、暮らしのリサーチャーとして、新しいテクノロジー以前に、人がどんな暮らしを作り、遠い未来に向かうかという可能性を考えることをライフワークとしている。

良品計画時代は、「無印良品」のプロダクトを生み出すために、収納についてのアンケートを月1回ペースでしていたという。そこでの気づきについて語られた。

「1家族が持つ靴の量は12足が平均でした。でも、平均値では思考は広がりません。仮に“社会のニーズはこれです”ということで商品を作っても、未来を作る商品は作れないことに気づきました。そこで、平均からのズレを見るようになりました。その数%の人たちが、どんなものを見てどんなものを食べているかというリアリティを想像することが大切なのです」(土谷氏)

観察の力を上げていく「観察学」を鍛えながら、生まれた斬新なコピーが、無印良品の「ものを持たないくらし」というキャッチコピー。

「モノを持たない暮らしを提案するなんて小売りの会社としてあり得ないということで、当初、会社からは怒られました(笑)。でも、あえてそのライフスタイルにどんな価値があるかを考えて提案した結果、消費者の心を掴むことができました」(土谷氏)

また、昨日食べたものについてアンケートで聞くのは定番で、そこから観察の解像度を上げることで見えてくるものについて、土谷氏は説明する。

「1人1人のアンケート結果を見てみると、リアルな暮らしが見えてきます。たとえば中国・上海でのアンケートでは、家庭でよく作るメニューにトマトと卵の炒めものが多く挙げられました。そこからたとえば、簡単な料理しか作らない人が多いのに、そこまで大きなキッチンが必要か?といったことが見えてきます。一方でよくありがちな結論としては、収納力が足りない=大きなキッチンが必要という発想ですが、解像度を上げて暮らしをよく観察すると、見えるものが違ってきます」(土谷氏)

また、「デザインとはシナリオを作ること」と土谷氏。人の暮らしについて、些細なことや感動をいかに見つけるかが重要だという。

「ローテクでありながらハイテクを求めたり、逆にハイテクを使うが、感情に寄り添ったり。そうした暮らしの些細な感動を見つけながら、ディテールをつなげた上で商品開発をしています。未来を考えてシナリオを作ることこそが、もっともクリエイティブな瞬間。なぜなら未来は予測するものではなく、作っていくものだからです」(土谷氏)

“先進ギア”で障がいの有無に関わらず、ボーダレスで魅力ある未来へ

株式会社RDS 代表取締役社長の杉原行里氏

株式会社RDS 代表取締役社長の杉原行里氏からは、「身体データがもたらす未来と選択肢」について発表された。RDSは、エンジニアやデザイナーを中心に構成する会社で、過去には、“いつか持ってみたい”というキャッチフレーズのもと、世界最軽量の「ドライカーボン松葉杖」を手がけ、グッドデザイン賞経産省大臣賞を受賞している。

今回プレゼンするのは、いつか乗ってみたい車、着てみたい服と同様に、いつか乗ってみたい車イスがあってもいいのでは?という思いから作られた、スタイリッシュなデザインとハイスペックな性能を持つ未来型車イス「WF01」。

RDSが開発を手がけた未来型車イス「WF01」

外車やスポーツカーを思わせる未来的なデザインで、最大時速50kmまで出せる選択肢を取り入れたのが特徴。元WGPライダーで、事故により車イス生活を余儀なくされた青木琢磨選手が復活するときに使用したのも同モデルだったという。

「キックボードのようなものが付いた車イスで、原付登録もできます。現在、車イスは体に障がいがある人が使うものとされていますが、将来はモビリティとして使用することになり、市場が活性化していくと考えています」(杉原氏)

一方で、松葉杖や車イスだけでなく、身体データを駆使したパラリンピック向けのギアを数多く開発しているRDS。パラリンピックでは、肉体の機能を補う最新の技術を駆使したさまざまなギアが登場することでも注目されている。

「パラリンピックは、世界最高峰、最高速を競うエンタメの場です。F1でも使われた、フェラーリ開発のハンドシフトのおかげで足が不自由な人も車の運転ができるようになったように、培われた技術が一般生活にも普及できると考えています。この視点で見ていくと、パラリンピックがより楽しめるのではないでしょうか」(杉原氏)

RDSでは、東京パラリンピック2020に向けて、 車イス陸上アスリートの伊藤智也選手をサポート。専用マシンの開発を手がけている。「チーム伊藤」として10名以上のエンジニアを中心に結成し、あらゆる技術を駆使してきたことを発表。

車イス陸上アスリート用車イス

「伊藤選手は現在50代で、2016年に復活しましたが、年齢的に身体的な衰えがあり、対策として、今年は身体の感覚を数値化することにしました。ところが、感覚は日々変わるため数値化できず、コミュニケーションがとれません。そこでデータを調べた結果、選手が車イスに座るポジションによって大きくパフォーマンスが変わることが判明しました。これまでは経験則に基づきデジタルが介入しなかったので調整が曖昧でしたが、ロボットを駆使したセンシングデータでその人の力を発揮できる最適解がわかるようになりました」(杉原氏)

この経験をベースに杉原氏は、今後はよりパーソナライズされたギアを量産化し、補完的な考えではなく、拡張する未来を創造したいと抱負を語った。

今回編集部が聞いた発表は残念ながらほんの一部だが、ファウンダーのヤン氏が言うように、テクノロジー開発の話で終始せず、その先にある具体的な社会課題を解決するビジョンがプレゼンされ、心踊る体験となった。

あらためて、ヘルスケアや食、資源の再利用などのあらゆる分野で最新テクノロジーを生かし、明確に社会実装していくのがグローバルの潮流だということを実感させられた。