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利益より社会問題の解決を重視。そんなソーシャルビジネスでボーダレス・ジャパンはなぜ成長できるのか?
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  • 2019.07.31
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利益より社会問題の解決を重視。そんなソーシャルビジネスでボーダレス・ジャパンはなぜ成長できるのか?

ソーシャルビジネスは儲からない。そんなイメージを持っている方は多いのではないか。しかし今回取材した株式会社ボーダレス・ジャパンは、設立から12年で49.2億円の売上・約1000人の従業員を抱える規模にまで成長している。

今世の中に必要とされ、ミレニアル世代から注目を浴びているビジネスの多くは持続可能な開発目標(SDGs)に絡めたものであり、これからますますソーシャルビジネスは盛り上がっていくと考えられる。そのトップランナーとして走り続けている代表の田口一成氏にソーシャルビジネスを成功させる秘訣を聞いた。

聞き手・文:立石愛香

田口 一成

株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役社長 

1980年生まれ。福岡県出身。大学2年時に栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て「これぞ自分が人生をかける価値がある」と決意。早稲田大学在学中にワシントン大学へビジネス留学。株式会社ミスミにて入社後25歳で独立し、ボーダレス・ジャパンを創業。世界9カ国で27社のソーシャルビジネスを展開し、昨年度の売上は49.2億円。2018年10月には「社会起業家の数だけ社会課題が解決される」という考えのもと、社会起業家養成所ボーダレスアカデミーを開校。年間100社のソーシャルベンチャーが生まれる社会起業家のプラットフォーム構築を目指す。2019年日経ビジネス「世界を動かす日本人50」,Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」に選出。

「援助かビジネスか」ではなく、自立を支援すること

―― まず、田口さんは発展途上国支援をするための手段として、NGOや国際団体でなく、ビジネスの力で社会問題を解決しようと考えたのはどうしてでしょうか?

田口:基本的にNGOなどの市民活動や、政府や国連の活動、そしてビジネスはそれぞれの役割分担があると思っています。中でも、個人の生活の基盤である雇用や、作ったものがきちんと売れる仕組みを作ることがとても大切だと思っていて、それって今の社会でいうとやっぱり経済活動なんですよね。

援助かビジネスかでなく、彼らの生活を支えるための経済活動という文脈でビジネスを捉えることこそ、ソーシャルなビジネスだと思っています。

―― 今、ボーダレス・ジャパンは世界9カ国で27事業を展開していますが、どんな事業内容なのか3つほど教えてください。

田口:1つは「ビジネスレザーファクトリー株式会社」という、バングラデシュの貧しい人たちに直接的な雇用をつくる事業です。バングラデシュの自社工場で革製品を生産し、それを日本で販売しています。店舗が日本全国に14店舗あって、今後も1~2カ月に1店舗ずつ増えていく予定です。

次にボーダレスキャリア株式会社の「ステップ就職」を紹介します。これは児童養護施設を18歳で出ていく若者の就職をサポートしていく専門サービスとして始まりました。現在は児童養護施設出身者だけでなく、いろんな理由で社会から離脱してしまった若者や、発達障害を抱えている人にも利用してもらっています。彼ら・彼女らは、社会に出たいと思いながら、さまざまな理由でうまく就職活動ができずに悩んでいますが、大手の就職斡旋会社なんかは手をつけたがらない領域なんです。そんな領域に特化した就職支援サービスをやっています。

あとは若者の社会への関心を高めるための「Tomoshi Bito」という事業ですね。

例えば、選挙の投票率が低い原因を突き詰めていくと、最終的に「みんな自分の意見がない」ということに辿り着いたんです。しかし往々にして自分の意見っていうのは、どこかで聞いた他の人の意見だったりするんですよね。だから社会の問題に関してみんなはどう思っているかが分かるメディアをつくろうということで、「どっち?」というニュースアプリを作りました。

―― ボーダレスが行っている事業の多くは資本主義社会から抜け落ちてしまった人たちを救うことだと認識しています。事業を立ち上げる際、世界のどこの地域のどんな社会問題をビジネスで解決するかを決める基準は何かあるのでしょうか?

田口:それは必ず起業家ありきですね。ボーダレスとして次にこの地域に行きたいとか、このテーマを扱いたいということは一切ありません。なぜなら、社会問題が解決されるまで、事業を途中でやめることはできないからです。

例えばある社会起業家がミャンマーの農村部の問題を解決したいといって、これまで煙草の葉を栽培していた農家たちにハーブティの栽培を勧め、彼らはその提案を受け入れて生業を変えたとします。その時点ですでに人々の生活を変えている。だから「やっぱりやめます」なんて絶対できないんです。もしそんなことがあったら、その村の人たちは二度と社会起業家を信用しなくなってしまいます。

寄付や助成金に頼らず新ビジネスを育てる仕組み

―― ボーダレスのビジネスモデルは、基本的に寄付金や助成金に頼るのではなくて、きちんと利益を上げる自走型の収益モデルを確立させているとのことですが、その仕組みについて具体的に教えて下さい。

田口:よく「ソーシャルビジネスはマネタイズが難しい」という話になりますが、助成金に頼らない収益モデルとして、ボーダレスでは全社で「共通のお財布」を使っていると考えています。すでに利益を出し始めた事業の余剰利益をプールし、そこから新規事業立ち上げに投資する。事業が軌道に乗るまでみんなでサポートしていくかたちです。この仕組みを僕らは「恩送り」と呼んでいます。

―― 良い呼び方ですね。また最近では社会起業家を育てるために、吉本興業のNSCに倣って学校をつくったそうですが、講師の方がとても豪華ですね。株式会社ヤマップ代表の春山慶彦さんも講師だとか。

田口:そうですね。ボーダレスアカデミーというのですが、「実践演習」「教養講座」「起業家講座」「ビジネスプランづくり」という4つのプログラムで構成されていて、春山くんには「起業家講座」の講師をしていただいています。僕は、ただ金稼ぎがうまいとか、組織づくりがうまいとか、リーダーシップがあるというのではなくて、社会思想を持った起業家を増やしていきたいという想いで起業家講座をやっています。

また、鎌倉投信を創業し、現在はeumo(ユーモ)という、企業投資・地域通貨のプラットフォーム・教育事業を柱とする会社も立ち上げた新井和宏さんや、アウトドアブランド・パタゴニアの日本社長の辻井隆行さんには、「教養講座」をもっていただいています。これはビジネスをやっていく上での経営者倫理という、良い会社や社会をつくるため環境に配慮した事業活動、経済活動を行うなどの、そういう基本的なリテラシーを持ってもらうための講座です。

「実践演習」と「ビジネスプランづくり」は、福岡校は僕が、そして、東京校は副社長の鈴木雅剛が教えています。1期目と2期目を合わせて、約100人が25万円の授業料を払って学びに来ています。

―― すでに起業した卒業生はいらっしゃいますか?

田口:1期生は卒業したばかりで、これから準備をしていく段階ですが、すでに登記を完了したのが2名、会社を辞めて設立準備に入っている者が数名います。卒業後も毎月1回集まって起業の勉強会をやっていて、1期生全体の3分の1は起業に向けて走り出している状態です。

―― どんな事業が立ち上がるか楽しみです。2期目で改善していきたいことは何かありますか? 

田口:2期目はビジネスプランづくりの時間を増やしていきます。1期目は、ビジネスプランに対するフィードバックを、僕や鈴木が行っていましたが、2期目からはアドバイザリーボードの皆さんにも教室に来てもらって、第一線で活躍する経営者からの実践的なアドバイスを受けられる機会を増やしています。

発展途上国で働く子ども=労働搾取!そんな安直な考えで世界は回っていない

―― 発展途上国の人がボーダレスグループの事業と仕事をすることで、経済的に潤って生活水準が上がり、安心した環境で生きることが可能になる反面、企業に経済的に依存してしまうじゃないかということが気になります。この点に関してはどうお考えでしょうか?

田口:「援助」に対しては「依存」という言葉が確かにあってもいいと思いますが、ビジネスの関係において正当な対価を払うことは当然でパートナーシップみたいなものです。自立できない人にご飯を分け与えましょうというようなスタイルではいつまでたっても自立できない構造にありますが、頑張った人が頑張った分だけ報われる社会になっていないことが今の問題であって、頑張った分だけちゃんと報われるようにしましょうとしているのが僕らのビジネスなんです。

技術を学ぶためのトレーニングをして、ちゃんと昇給制度を設けて、一生懸命頑張れば賃金も上がっていくようにしています。僕らの工場を辞めてほかの工場に行っても、同じ、あるいはより高い給料がもらえるような技術を身に付けているという状態になれるのが理想です。なので、正当な評価を行い、成長の機会を提供していきたいと思っています。

―― それでも、発展途上国でビジネスをするとなると、「現地の人々を搾取しているんじゃないか」という表面的な見方をする人もいるかと思います。ボーダレスは過酷な労働状況に代わる、より働きやすい労働環境を提供していますよね。

田口:そういう見方をされることも確かにありますね。例えば今バングラデシュの労働賃金は他国と比べて安いんですが、それが今の彼らにとっての「強さ」でもあるんです。何でも世界を広く見渡した時にお互いさまで成り立っていて、それって、みんなが強いところを持ち寄って成り立っていくということだと思うんです。

その「強さ」の中身はどんどん移り変わるものであって、日本も昔は労働力が安いことが強さだったんです。そうやって、メイドイン・ジャパン製品が世界中に出て行った時代があるじゃないですか。そうやって貿易をしてお金を稼ぎ、自国の経済を発展させたというステージが数十年前の日本だったんです。今の日本人は、忘れたかのようにやっていますけど。

中国を見たら分かりますよね。昔に比べて今はどんどん賃金が上がり、内需も増えて今の中国はたくさんのお金を使う、巨大な消費市場でもある。その結果、生産国がインドネシアやバングラデシュに移っていて、年々賃金も上がっていって、外貨を獲得しています。

そういう風に持ち回り制みたいなかたちで変わっていって、最後はその役割がアフリカにいって、みんなが豊かになったあとは原点回帰で地産地消に変わると思っています。人類はどんどん進歩していっているので、そのうち地産地消のものをやろう、買おうという動きがちゃんと出てくる。その動きが出てくることを仕掛ける人たちが必要なので、それを僕らはやろうと思っているんです。

だから、今現在のバングラデシュが経済的に貧しいからといって、そこで生産された商品を「不当搾取だ!」といってモノを買わないと、一向に彼らの財布の中身は増えないんです。

どの国や地域も、そういう自然な成長の段階があるよね、と思っているんですけど、こういう構造を100人が100人、すぐさま理解できるわけではない、という難しさがありますね。僕はバングラデシュの人たちにも「最終的には自国の需要でやるようにしよう。いつまでも貿易のためだけにモノを作るわけではないからね」と常々言っています。

―― 大変分かりやすい説明です。一方でそんな経済構造の甘い蜜を吸おうと、未だ劣悪な環境・低賃金で働かせている企業から現地の人を守るために、御社が気を付けていることや大切にしていることがあれば教えてください。

田口:こういう問題の根本的な原因は、生産者の顔が見えていないということです。先ほどおっしゃったような「現地の人を劣悪な環境で働かせて儲けてやろう」と心の底から思っている悪い人ってどれだけいるんでしょうか。消費者も素直に安いものが欲しいと思って買っているだけだし、小売店の人もできるだけお客さんに安いものを提供したいと思っているだけだし、バイヤーさんもいい材料をできるだけ安く調達しようと仕事を頑張っているだけだし、商社さんもそれを言われて、「がってんだ、頑張ります」と言ってやっているだけなんです。

みんな悪気なく良かれと仕事を頑張った結果、誰かを不幸にしているということに気付いていないのが本当の問題です。なぜ気付かないかというと、小売、メーカー、原材料商社、生産と仕事が分業していて、ほかのところでどんな人が働いているか、何が起こっているかが見えないからなんですね。

だから僕らは必ず生産から販売までを一貫してつなぐようにしています。例えばビジネスレザーファクトリーやAMOMAの運営メンバーや店舗の販売メンバーも年に1回は必ず現地に行きます。

働いている人がどういう表情でどのくらい一生懸命働いているのかを見て、自分たちがモノを売るということはどういうことかを分かっていれば、工場で働く人に「コストを下げてくれ」と言う人は一人もいなくなるんです。

そんなことよりも、どうやったら少し高い値段でも買ってもらえるかを考えて、質の高い接客をしたり、デザイン力を磨いたり、そういう付加価値を上げるような前向きな仕事の仕方へと自然となっていきます。うちの会社では誰もコストカットの話をしないですよ。

良いインパクトのあることをやれているのか

―― グループの代表として数多くのソーシャルビジネスを手掛けてきた田口さんですが、チャレンジした中でうまくいかなかった例があれば、その原因も含めて教えてください。

田口:つい最近で言うと、トルコでシリア難民に雇用をつくるために始まった八百屋×デリの「Salada Farm(サラダ・ファーム)」ですね。商習慣の違いや言葉の壁に悩んでもがいていたところ、ビザが取得できずに困っていたシリア難民にもビザがバンバン出るようになり、シリア難民も普通に働けるようになりました。僕らがいなくてもいいなと感じたし、赤字を出してまでやることではないと判断したので撤退することになりました。

―― 事業としてはうまくいかなかったし、現地の問題に対して貢献度が低いと感じたのですね。よく田口さんがおっしゃっている「ソーシャルインパクト」が低いということですね。

田口:そうです。それがトルコの場合はあまり大きく感じられなかった。撤退というのは失敗ですけど、どんどん撤退できるようにしておくということは、どんどん次のチャレンジができるということでもあります。自分たちが社会の役にどうやらあまり立てていないぞとなった時には、素直に撤退して、もっと役に立てる別のものを考えてやり直そうぜというのが僕らのやり方です。

本当の幸せなことは何なのか。真剣に考える時がきた

―― 先日の信頼資本財団の講演では「限りない経済成長だけを目的に踊るのは情けない、人類がもう一歩成長することができるチャンスが来ている」とおっしゃっていましたが、「もう一歩成長する」とはどういうことなのでしょうか?

田口:経済成長を数字で追い掛けることは向上心の一つの証だったりもしますが、そこを盲目的に追いかけちゃいけませんよね。

大の大人が血眼になって、売上やGDPについて話していて、あたかもビックリマンチョコのシールを血眼になって集めている小学生と同じようなレベルで数字の話をしているのが虚しいというか、人間はそういうために生まれてきてねえよな、ということだと思っていて。

当たり前ですけど人は幸せになるために生まれてきているので、本当の幸せは何かということをそろそろちゃんと考えなければいけないと思っています。数字を追いかけだしたのはここ100年、200年の話であって、僕らのひいばあちゃんぐらいの頃の多くの人は個人事業主だったんですよね。だから売上とか利益は全部クローズドで、数字のために生活していた人はすごく少なかったと思うんです。家族が食えて子どもたちが学校に行ければいい、足るを知るということがちゃんとあった状態だった。

それがいつの間にか企業が売上を公表して、給料も相対的な評価の世界になってきて、隣にいるあいつより自分は給料がいいか悪いか、同期のあいつの中で給料がいいか悪いか、卒業した大学の仲間の中でいいか悪いかと、そういう世界になってきてしまった。それは、人として浅はかでねえの?という気持ちです。

社会問題を解決するプラットフォームになる

―― 志の高さを見習いたいです。途上国内で格差が生まれているのは、政治家の腐敗も大きな原因のひとつですが、今後ボーダレスが政治に取り組んでいくこともあるのでしょうか?

田口:可能性はゼロじゃないと思います。僕は社会が良くなるためなら何でもしてやろうと思っているので、経済人だから政治に口を出すのはNGとは一切思わないですが、僕自身は政治家には向いていないので、なることは100パーセントないですけど。

―― 公的機関とタッグを組んで事業を行う道は?

田口:今後は大いに考えられると思います。例えば、地方自治体は町をどうしていくかという話し合いをしますが、話し合いだけ盛大にやって実際は誰もやり手がいないことも多く、世の中は常にプレイヤーを必要としています。

ボーダレスはプレイヤーの集まりなので、公的機関でも行政でも、何か課題を持っている人が僕らのプラットフォームに課題を投げ込んでくれればいい。社会起業家の卵たちは常に事業のネタを探していて、自分の人生を通して社会の役に立てたらいいなと強く思っています。もっと言うと、困っている人や社会の問題を目の前にしたら、「それこそ俺がやりたいことだ」と言い出す人たちです。

これからいろんなセクターの人たちと協力しながら、社会のために人の力を集結させられるコーディネーターになることがボーダレスの仕事とだと思っています。

――最後に、ボーダレス・ジャパンでのこれからの目標を教えてください。

田口:まずはソーシャルビジネスのロールモデルとなることですね。メルカリや楽天、ソフトバンクのような、ビジネスのロールモデルとなるケースがまだ非常に少なく、世間一般にソーシャルビジネスといえば「これだ」というモデルがないのが現状です。

あとは、社会起業家のプラットフォームとして「社会起業家志望の人はボーダレスに来てくれれば何とかなりますよ」と言えるだけの受け皿を持つことです。そのために、バックアップ態勢を磨いていきたいと思います。


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