株式会社ナノオプト・メディアが運営する 「Interop
Tokyo 2025」 が、2025年6月11日(水)から13日(金)の3日間、千葉・幕張メッセで開催される。Interopは通信・インターネットを中心に、最新のICT技術とデジタルインフラが集結する国内最大級の展示会だが、その利用範囲はいまや地球上だけに限らず宇宙へと広がりを見せている。そんな中、Interop内で開催される特別企画 「Internet×Space Summit」
が今年で3回目を迎える。
トランプ政権によるアルテミス計画の進展、日本の宇宙戦略基金の始動など、国際・国内ともに宇宙開発が加速する宇宙ビジネスについて様々なセッションや最新技術動向が紹介される予定だ。
そこで本記事では、「Internet×Space Summit」 の開催を控え、本企画で中心的な役割を担うIPNSIG Presidentの金子洋介氏と、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科
教授の神武直彦氏によるオンライン対談の様子をお届けしたい。
変化する国際情勢と日本の宇宙戦略-「Internet×Space Summit」 3年の軌跡
神武:今回で3回目となるスペースサミットですが、前回の振り返りや昨年からの状況についてどのように感じていらっしゃいますか。例えば、トランプ政権下でアルテミス計画の進行状況にどのような変化があったかなど、具体的なアップデートもあればお聞かせください。
金子:「Internet×Space
Summit」 が始まったきっかけは、私の所属するIPNSIGの活動を紹介させていただくために慶應大の村井先生を訪ねた際に、非常に興味を持ってくださったことでした。若い方々も含めて、日本全体でこの取り組みを進めていこうという話をいただき、そこでInteropの存在を伺いました。
その時期はちょうどInteropの2ヶ月前で、村井先生としては翌年での開催を考えていたようですが、私としては残り2ヶ月しかないと、焦りながら宇宙や通信関係の企業の方々に声をかけ、何とか開催にこぎ着けることができました。ありがたいことに非常に多くの方々に賛同いただき、1年目から大成功を収めることができたと思っています。
神武:金子さんが勘違いされたことで1年目がすぐに始まったのですね。それは存じ上げませんでした。
金子:当初から「惑星間インターネット」 というキーワードがありました。これは、月、火星、さらにはその先に向けて、インターネットと同じような通信基盤を作ろうというコンセプトです。しかし、これはずいぶん先の話であり、長い道のりがあることも事実です。そこで、この取り組みは継続して毎年行っていこうという認識のもと、3年が経過したという段階です。1年目はInteropが通信をテーマにしていたこともあり、通信インフラを提供する企業にフォーカスし、2年目はその通信が誰のためにあるのか、つまりユーザー側に目を向けました。ちょうど月面ビジネスへの関心が高まり始めた時期で、多くの方が新たな可能性を模索していました。3年目となる今回は、さらに裾野を広げたいと考えています。これまで宇宙に関わりのなかった方々や、自社とは無縁だと思っていた方にも、何らかの形で関われる可能性があることを示せればと思っています。
神武:昨年から今年にかけて、アメリカや日本を含む国際情勢も大きく変化しています。金子さんから見て、どのような変化がありましたか?
金子:やはり大きな変化はアメリカの大統領選挙ですね。トランプ2.0政権が始まり半年ほど経ちましたが、日々ダイナミックな動きがあります。宇宙に関しても例外ではありません。トランプ前政権では、月面での持続的な有人活動を経て火星を目指すという 「Moon to Mars」 とも呼ばれるアルテミス計画が打ち出されましたが、現在の政権もその路線を継承されると良いと思っています。
神武:一方で、NASAの科学部門の予算が削減されたという話もありますが、現地での肌感としてはいかがでしょうか?
金子:そうですね。科学分野の予算は厳しい状況にあります。ただ、有人探査については引き続き優先されています。今回新たに、火星にアメリカ人宇宙飛行士を着陸させるという構想もでてきました。宇宙探査のように未知の世界に挑む意義は多くの人が直感的に理解できる分野です。さらに、宇宙は地球を観測し、改善していくための手段でもあるので、そうしたミッションが続いていくことを願っています。

宇宙ビジネスに広がる日本の可能性
神武:私も今月末、国連の宇宙空間平和利用委員会に出席する予定ですが、委員会期間の短縮など、国際的な影響を感じることが増えました。一方、そうした中で日本にとっては新たなチャンスでもあると思います。スタートアップも増え、宇宙戦略基金も始まりました。日本が国際社会の中でプレゼンスを発揮する機会も増えるのではないかと期待していますが、このあたりはどのように見ていますか?
金子:おっしゃる通り、宇宙戦略基金は日本の宇宙政策の柱の一つです。今後10年間で1兆円の投資が予定されており、宇宙産業を支える企業に資金を提供することで、日本の産業基盤や国際的プレゼンスを高める狙いがあります。大きな推進力になっていると感じています。
神武:今後の月面活動に向けては、既存のプレイヤーに加えて新たな参入も必要ですね。通信やAI、エネルギー、セキュリティなど、多くの領域で人材や技術が求められています。どのような分野の方々に加わってほしいとお考えですか。
金子:通信はもちろん重要ですが、それだけでは不十分です。送られたデータを蓄積し、処理・解析して活用する──そうした一連のプロセスを統合的に考える必要があります。これはまさに、Interopに参加されているような専門家の方々が活躍できる領域だと思います。月と地球の間に新たな経済圏を構築していくうえで、ぜひ多くの方に参加していただきたいと考えています。
神武:そうですね。今、地球上でビジネスやさまざまな取り組みを行っている方々が、月面や火星に進出しようとする場合、地球とは何が違うのか、どんなチャレンジがあるのでしょうか。
金子:基本的に、地上で使われている技術の中枢機能は、他の天体でもそのまま使えると考えています。極端な話、地上のインターネットをそのまま月にコピーすることも技術的には可能です。
ただし、宇宙にそれを持ち込むにはロケットでの輸送が必要です。ロケットでの輸送は重量がそのままコストに直結するため、いかに装置を小型・軽量化するか、消費電力を抑えるかが大きな課題になります。さらに、月では熱処理の方法も地球とは異なります。空気がないため熱を逃がすには伝導や放射による冷却が必要です。こういった「環境への適応」は技術開発の対象になりますが、逆に言えば、動作そのものの仕組みは地上と同じでよいというのが私の考えです。
神武:たしかに、厳しい環境ではありますが、たとえば月は昼夜のサイクルが長く、太陽光発電に適している面もあります。必ずしもネガティブな要素ばかりではないですね。
金子:そうですね。月面での電力資源の確保は、チャレンジする方にとっては大事な部分になってくると思います。まさにエネルギー源に関しては、日揮グローバルさんが月面でのエネルギープラントについて紹介してくださる予定です。
神武:今年はトヨタの片岡さんから 「有人与圧ローバー」 もご紹介いただけると思いますが、金子さんが今着目されているような取り組みなどについてもご紹介いただけますか。
金子:「有人与圧ローバー」 は、アメリカからも非常に期待されていますね。アポロの時代では、月面に着陸して宇宙飛行士が宇宙船から出て歩ける範囲ぐらいしか動けなかったのですが、このローバーによって月面での行動範囲が飛躍的に広がります。無人での自動運転も可能ですし、2名の宇宙飛行士が搭乗して活動することもできます。科学的探査だけでなく、活動範囲が広がることは非常に大きな可能性を秘めていると思います。
神武:活動範囲が広がるということは、「地図」 や、安定した 「通信」 も必要不可欠となりますよね。
金子:はい。おっしゃる通り 「有人与圧ローバー」 が月面で活動するためには、「地図」 や 「通信」、さらには地球上と同じような 「測位」 の技術も不可欠です。実際にNASA・ESA・JAXAが連携して月面版のGNSS (グローバルナビゲーションサテライトシステム) である 「LunaNet(ルナネット)」 の開発を進めつつあります。
神武:宇宙戦略基金でも、月面での 衛星測位 についてのプロジェクトがスタートしています。日本には準天頂衛星 「みちびき」 などの技術もありますので、日本が主導的な役割を担って世界に貢献できるかもしれないですね。
金子:そうですね。特に測位技術はアメリカから始まり、ヨーロッパ、ロシア、中国、インド、そして日本というように、歴史的にはこれまで各国でバラバラに開発が行われてきましたが、人類全体に資するインフラですので、国際協力の機運が高まっていることは非常に素晴らしいと感じています。
神武:私は、すでに街が形成されている地球と違い、月や火星ではまったくのゼロから開発が始まるため、その手法も異なると思っています。地球にあって月面にすぐに役に立つものはそのまま持っていけばいいと思うんです。例えばAIや自動運転やロボットなど、そういったものをいち早く導入することで、人の手を介さずとも輸送やインフラ整備が進み、ある程度の都市機能が実現する可能性もあるのではないかと思いますが、いかがでしょう?
金子:まさに世界の宇宙機関が考えているシナリオも同様です。宇宙は危険も多いので、まずはロボットが探索を行い、月面の資源や環境を把握。その後、データが揃った段階で有人ミッションに移行するという流れで進められています。将来的にはAIを搭載したロボットが自律的に探査を行うことも想定されています。
神武:今後のアルテミス計画では、日本人宇宙飛行士の月面着陸も予定されています。ロボットではなく、人間が行く意義とは何でしょうか?
金子:ロボットも非常に精密になってきましたが、現在も国際宇宙ステーションでたくさんの宇宙飛行士が活躍しているように、それでも人間にしかできない作業は多いと思います。また技術的な意味だけでなく、日本人宇宙飛行士が月面に立つということ自体が、若い世代に夢を与えるという点でも大きな意義があります。また、国家的なプレゼンスの観点からも重要な意味を持っていると思います。

さまざまプレイヤーが集結する 「Internet×Space Summit」
神武:ありがとうございます。さて 「Internet×Space Summit」 ですが、今回の基調講演 (「デジタルインフラを宇宙に広げるために我々が考えるべきこと」 6月11日(水)17:00~17:40に開催) では、私と金子さんのほか、トヨタ自動車で 「有人与圧ローバー」 に関われている片岡さんとInterop Tokyoの実行委員長である村井先生が登壇されます。当日はどんな議論ができたらいいとお考えですか?
金子:そうですね。やはり、宇宙戦略基金もスタートし、各国が月や火星への計画を進める中で、宇宙ビジネスを人類の挑戦と捉え、多くの企業が「自分たちにも関係がある」と感じられるような内容にしたいと思っています。技術的課題や事業としての可能性など、多角的な視点で宇宙との接点を見つけていただけたらと思います。
神武:ありがとうございます。今回の「Internet×Space Summit」は展示会場にも専用エリアが設けられていますが、どのような企画が予定されていますか。
金子:はい。展示会場内の「Internet×Space Summit」エリアでは、展示ブースに加えてセミナー会場も設けています。ここでは多彩な登壇者による講演が予定されています。アカデミアからは「WIDEプロジェクト」が参加されますし、民間では宇宙通信インフラに取り組むKDDIさんやNokiaさんが登壇されます。さらに、非地上ネットワークと地上ネットワークを統合する「宇宙統合コンピューティングネットワーク」によって社会課題の解決を目指すSpace Compassさんの取り組みも紹介されます。また、宇宙ビジネスにおける法律の入門講座、宇宙保険に関するセミナーも行われる予定です。
神武:JAXAからもご参加があると伺っていますが。
金子:はい、JAXAからは宇宙戦略基金に関する説明に加え、国際宇宙探査の今後のシナリオやロードマップの紹介もあります。研究からビジネス、法制度、社会インフラまで、非常に幅広い視点で宇宙をとらえる機会になると思います。
神武:昨年との違いで、今年特に注目すべき点はどこでしょうか?
金子:一番の違いは、政府関係者が積極的に参加してくださっている点です。たとえば、宇宙戦略基金については総務省から直接ご説明いただけますし、スポンサーのPwCさんの講演には外務省の方が登壇され、トランプ2.0政権と日本の宇宙外交についてお話しいただく予定です。

神武:それでは最後に、来場者の皆さまへのメッセージをお願いします。
金子:「Internet×Space Summit」も、今年で3年目を迎えました。宇宙開発は今後ますます盛り上がっていきますし、日本国内でも宇宙戦略基金が始まり、官民一体となった動きが加速しています。これまで宇宙と無縁だった方々にとっても、今がまさに新たなチャンスの入り口だと思います。ぜひ会場に足を運んでいただき、最新の取り組みを「自分ごと」として捉えていただけたら嬉しいです。
神武:私も、宇宙戦略基金などの新たな取り組みを通じて民間から事業が生まれ、日本の宇宙産業がどんな可能性と課題を抱えているのかが、この
「Internet×Space Summit」 を通して見えてくることに期待しています。そして1年後のInteropの会場で、「1年前に話していたことが実現したね!」
と振り返ることができるような展開になると理想ですね。
それでは、来週幕張でお会いしましょう。本日はありがとうございました。
Interop Tokyo 特別企画 「Internet×Space Summit」 https://www.interop.jp/2025/exhibition/spacesummit/
Interop Tokyo 2025
会期:2025年6月11日(水)~13日(金)
会場:幕張メッセ(国際展示場 展示ホール4~8 / 国際会議場)
主催:Interop Tokyo 実行委員会
運営:(一財)インターネット協会 / (株)ナノオプト・メディア
参加費:無料(展示会・講演) WEBからの登録制・会期3日間有効
公式ホームページ
https://www.interop.jp/