CULTURE | 2019/03/21

クリエイターが会社化する理由。tofubeats(HIHATT)×としくに(渋都市)対談【後編】クリエイティブな仕事の回し方

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検索窓に「法人化」と入れれば、ブラウザ内に数々の事例が並ぶ。インターネットによって知識を得ることが身近に...

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検索窓に「法人化」と入れれば、ブラウザ内に数々の事例が並ぶ。インターネットによって知識を得ることが身近になった世代のアーティストたちは合理的だ。

ミュージシャンである自らマネジメントする会社「HIHATT」を経営するtofubeats、シェアハウス「渋家(シブハウス)」から派生した数多くの照明や演出をこなすクリエイター集団の会社「渋都市(シブシティ)」をまとめる、としくに。

彼らに会社化に至るまでの赤裸々な心境を語ってもらった前編から引き続き、会社化に関する周囲への影響、法人格としての自分、そして影響を受けた経営者の話を聞かせてもらった。

取材・文:高岡謙太郎 写真:寺沢美遊

法人格を得ることで仲間に仕事を回す

ドラマ『電影少女 -VIDEO GIRL 2018-』主題歌、tofubeats「ふめつのこころ」

tofubeats:法人化してよかったのは、ドラマ『電影少女』のサントラみたいにその都度アーティストを誘って制作することもできること。ドラマのサントラを自分だけでなく、いろんな若手に振ってみようと思えたのは法人があったからですね。

としくに:会社として仕事を受けて、知り合いに回せることは大きいです。個人だと、その人の収入がいったん増えることになるので、将来的な確定申告で放っておくと他人に回した仕事も自分の収入になってしまう。つまり払う税金が増えちゃう。

tofubeats:ちゃんと経費として処理はできるんですが、キャッシュフローがやりやすくなりました。気軽に人に仕事を頼みやすくなった。ここから若いアーティストを雇ったりもできるんですが、今のところ自分は専属マネジメントをする気はないです。

としくに:法人格は、基本的に資本を集めるシステムになるんですけど、その後ばら撒こうというのが浮かぶんですよ。僕の場合は給料だったりします。雇いやすいし、そんなに次々と雇えないとはいえ…僕の場合は実際に雇っちゃっていますね(笑)。仕事がなければつくってあげることもできる。人手が足りないところに派遣することもできるし、うちがフリーの人を雇うこともできる。

tofubeats:あと、今期からBeatportにHIHATTのページができまして、外注でいろんな人を出していこうと。法人はそういうことができるようになるんですよ。

としくに:Beatportって法人じゃないと契約できないの?

tofubeats:レーベルとして実績がないとお金を払ってもつくれないことがあるんです。うちは3回目のトライでようやく枠組みができたので、いろんな人に頼んでやっていこうと。個人でもできなくはないけれど、法人になると途端にハードルが激下がりする。

としくに:なんなんすかね、あの構造。法人になにかがあるわけではないんだけど、法人という名義を持っているだけでやりやすくなることが多い。やりにくくなることはむしろ少ないかもしれない。

tofubeats:厚生年金に入れたりとか。法人成りなんで自分の分と合わせて倍を払ってるんですけどね。不思議なもので、人格が分かれると感じなくなっていく。

としくに:「若い時にこういう風に仕事を振ってくれる人がいたらいいな」っていうのが自分の中にずっとあって。僕らはたまたまうまくいっているだけで、20代前半でクリエイターやアーティストで食っていけるのはなかなか少ない。最初にぶつかる壁としてよくあるのが「お金がなくて死にそう」ってこと。とはいえバイトをするとつくってる暇もない。自分がやりたい方向に近い仕事が落ちてればいいのにと思っていて。ライブや映像の業界は、大体新入社員で入ったらブラックで手取りも全然ない。どっちに進もうが鬱になる。それが嫌だから、なんとかなんないかなと。だから自分はフリーランスとしてうまくいっちゃったから法人格を立ち上げて、見える範囲内にいる人たちだけではあるんですけど、そういう負担がちょっとでも軽減させられたらいいなって。

tofubeats:今運良くこっちに金が来てるんで…。自分の金って感じがないんです。

としくに:たまたま時代の流れがこっちに来てくれただけで、もしかしたら違うところにこの流れが向いていた可能性もある。

tofubeats:だから「掘り当ててラッキー」くらいのもので、それなりに分けようと。その代わり掘ったらちょうだいよ、みたいな感じもあります(笑)。

としくに:みんなで一緒に掘り当てようとしてたよなって漠然とした村意識があって。

tofubeatsを俯瞰する法人格としての河合

tofubeats:やっぱり、法人って自分と違うんですよ。言ってしまえば会社の儲けは実質僕の稼ぎなんです。なんですけど、そこから月額の給料をもらって会社に金が残ると、「これは会社の金だ」って思うようになる。法人格っていう人格ができるんですよ。tofubeatsと河合(tofubeatsの本名)に分かれる。日本の法律も、会社のお金は使った方がいいようにうまいことできていて、手元にお金を残しておいてはいけないようになっている。

としくに:資本主義はお金を回すべきだから、お金を回した方が得するようにシステムがつくられてるんです。

tofubeats:回していったほうが得なら、周りに仕事を振っていこうと。それこそ「HARD-OFF BEATS」をやってたのは本当にそれ。うちは決算が2月で、黒字が確定した瞬間に動画を撮る旅に出るんです。

旅先で集めた機材で作曲するドキュメンタリー動画「HARD-OFF BEATS」

としくに:なんて生々しい動画なんだ(笑)。見方が変わっちゃいますよ。

tofubeats:動画の中でも言っていますから。「弊社が黒字だったので旅に出ます」って。とか言いながらYouTubeでも収益は一応考えています。いまは赤字ですが、長い目で見ていきたいです。

明朗会計で仲間に仕事を分配

huezがステージ演出したパーティ「大都会と砂丘」

としくに:tofubeatsとは違って、僕は仕事を振る率が高いから。僕が法人として外の人に仕事を頼む場合、実際やっていることは世でいう“中抜き”なんですよ。そうすると、自分がフリーの時に中抜きされていた分、「自分もこれくらいなら納得してたな」っていう妥当な抜き加減がわかるんですよね。昔の人たちが隠してたわけでもないんだろうなと思いますよ。わかりにくいんですよ。僕は身内にだったら理由も説明できますし、帳簿を見せながらできるだけ説明します。

tofubeats:明朗会計スタイルができるようになったらいいなっていうのはありますね。だから、うちはマネージャーが歩合で全帳簿を見られます。そうした信頼関係がある。事務所にいた時は、それが不明瞭に見えてたんですよね。もし今後、自分が資本家になった時に「もっと違うふうにやろう」になるのか、やはり不明瞭なことするのか、それはなってみないとわからないないですが。

―― そもそもミュージシャンで「自分が資本家になったら」なんて、そういう長い目で考える人は少ないと思いますが(笑)。

tofubeats:そういう時に自分がどうなるのかに興味が元々あったんですよ。信頼ができない社長もいて、信頼できる社長もいるから、その差は何なんだろう? とか考えていて。

としくに:社長さんって意志があったり思いが強くてなった人が多いので、思った以上に好き嫌いで判断してるじゃないですか。全然客観的や冷静ではなかったりする。

―― それがカラーになっていればいいんでしょうけどね。

tofubeats:こと音楽になるとセンスって大事なので。センスが合わないところと仕事しちゃうと人生棒に振ることになる。

法人化している周りの方々、尊敬する社長

―― お2人の周りには、他にも法人化した方はいらっしゃるんですか?

tofubeats:僕は申し訳((有)申し訳ないと)くらいですかね。渡辺さんは10年来お世話になっているんで。

としくに:インディーズのノリのまんま法人化しちゃったっていうのは、この界隈では少ないと思います。

tofubeats:若手だったら、Tokyo Recordingsの小袋(成彬)さんなども法人化してます。あっちはもっと戦略的法人化というか。バンドだったら利害を分配しているとかですね。

としくに:アイドルも一部、長生きしようとするためにつくったというよりは、独立採算で回そうと自分たちで法人格を立ち上げたり。ここ5年でそういうところは増えましたね。そういうスタンスで立ち上がった法人格とはできることを一緒にやっていきたいです。

tofubeats:仕組みにチャレンジしてきた社長にお会いすることも多くて、Vestaxの社長の椎野(秀聰)さんとお会いしたのはマジでデカくて。 楽器メーカーのESPをつくった人でもあるんですけど。会社だから実現できることってあるんだなって思わされました。

―― としくにさんは先人で尊敬される方はいらっしゃるんですか?

tofubeats:ライゾマ?(笑)。

としくに:ライゾマってうちと構造が違うから(笑)。うちが会社を立ち上げるときに一番参考にしたのは、自動車会社のフォード。その会社の社長の方針を自分は参考にしているんですよ。フォードさんは高校をまともに卒業していないらしくて、それを知ってる有名大学を卒業したエリートたちに、よく小難しい質問で難癖をつけられていたとか。それに対して、彼は「不勉強にして、その質問の答えは分からないが、その分野でアメリカ最高の人物となら、5分で連絡が取れる」と言い放っていていたと。つまり「誰に聞けばいいかわかる人」なんです。自分の参考にできるやり方がこれだったんです。自分の知識だけでなく人に頼って判断して答える。プレイヤーのタイプの社長が周りに多いんですけど、僕自身はプレイヤーを降りているんで。

tofubeats:椎野さんも同じで、楽器メーカーをやっているのに楽器はつくれないんです。ただ、良し悪しを見ることはできる。

2人にとっての社長観とは?

tofubeats初期の名曲「水星 feat,オノマトペ大臣」

としくに:これをつくりたかったらコストはこうだとか、この人に聞けばわかるとか、そういった知識を大量につけていれば、仕事になる。自分がつくれなくても。

tofubeats:社長は「選ぶ」「決める」「責任とる」が仕事なんですよね。

としくに:選んで、ありがとうとごめんなさいが言えればいい。

tofubeats:決めるっていうのが一番難しい。自分はずっと決めさせられてきた人生なのであんまり思わないですけど、普通の会社にいる人って決めるのが怖い。

としくに:自分のYES/NOで自分の会社の何十人が影響を受けるようなことをしているので、僕はうまく行かなかったら素直にうまくいかなかったって言っちゃいますけどね。「そこの才能なかったわ!」って。社長の地位を下げるのを徹底してますね。たとえば、僕は役員報酬なのでもらっているお金はみんなより大きいけど、それはみんなより背負っているリスクが大きいんだって説明もします。会社が潰れたらみんなは仕事を失うけど、僕はそこからさらに返済の義務を負うから、マイナスからやり直しになる。それは辛いし、頼むからもらってもいいよねって、ちゃんと一人一人説明していく。うちの会社は役員が5人いて、代表が僕と松島やすこで、うちって役員の株式分配が全員同率なんです。だから、他の役員のうち3人が僕を降ろせって言い出したら、実際に僕を降ろせる。この緊張感はいいと思っていて、経営者として信頼できなくなったら降ろせばいい。

tofubeats:僕は雇わないで全部外注にしているのも同じで、嫌だったら受けないって選択肢もできる。

としくに:自分はいつか退いてもいいかなと思います。登記関係でいろいろと手続きはありますけど、代表を変えたり、増やしたり、モチベーションが高い人が出てきたらそれでもいい。同族経営なんて微塵も思ってないです。

tofubeats:僕は楽曲の権利が会社にあるから違いますね。どこで何が大ヒットするかわからないじゃないですか。今年から突然「POSITIVE」をDream Amiさんがライブでやってくださるようになって。リアレンジしたものが使われるって話を聞いて、昔つくった曲が輝き出すこともある。「水星」のカバーも毎年なんかしら出てくるし。

としくに:今、アプリなのかYouTuberなのか、どこから流行るのかは見えないから、BtoCはなにが起こるかわからない。それと違って、BtoBは隙間産業ができるんです。この業界にここが足りてないというのが見えてくるので、僕はそこが強い。huezがライブ事業に参入したのは、2010年くらいから明らかにライブの本数が倍増したからなんです。なのに業界のスタッフの数は変わってない。プレイヤーが倍増したところで支えるスタッフが増えるわけじゃないんで、裏方産業って仕事が多すぎてブラックなんです。「夜9時に本番が終わった後に明日朝7時から新木場だ」なんて人も多いですよ。ライブ業界ってとっても体育会系の縦社会なのに、それでもうちが仕事をこれだけいただけるってことは、よっぽど手が足りてないんですよ。うちはそれをありがたくもらって経験を積ませてもらってここまで来れたんですが。

そういう隙間の仕事を一つ見つけたら1,000万円くらいはそこにあるんですよ。それが10個あれば一億になるんだなとか。tofubeatsとは立場がぜんぜん違う回し方ですよね。

tofubeats:僕は自分を守るためというのが1番大きい。

としくに:僕はこの時代にあえて逆行するような組織づくりなんで。

経営を始めてからの時間の経過

tofubeats:うちも5期目になって、潰れると言われる3年間を乗り越えて、「この会社はすぐ倒産することはないな」という信頼ができてきました。銀行で口座を開けるようになったり。

としくに:僕も3年目の闇は感じました。気を抜いてたら絶対に乗り越えられなかったです。特に創業期はほんとギリギリでした。

tofubeats:渋都市はアウトコースを攻めすぎなんですよ。今月借り入れ決まるから倒産は免れるとか、まるで町工場ですよ。ストックを抱えてないのにそうなるのかみたいな。

としくに:そんな時代もなんとか乗り越えました。あのとき在庫を持ってたら終わりでしたね(笑)。

tofubeats:在庫倒産まっしぐらでしょう。

としくに:CDに資本価値はめっちゃあるのに手元にお金がない、なんてことはありうるんで。3年を越えたらその山はわかります。

tofubeats:そこで言うと弊社は無借金経営なので。マネージャーに関しては利益の何%を分配というやり方ですし。案件を振る場合も案件からのお金を割り振るかたちになるので、残る利益がゼロということはあってもマイナスは原則ない。

としくに:それに比べるとまだまだ僕らは桃鉄みたいな経営してます(笑)。tofubeatsの方が法人のつくり方としては時代に合ってると思います。あと、僕は渋家(シェアハウス)がそもそもあるので。あそこに今も世代交代した若手が住んでるから……。当初、僕が渋家やっていた頃は未来の出口が見えなかったんですよ。何につながるかもわからないまま8年間続けていて、会社を立ち上げたらようやく出口を示せた。ここで潰れると若手が絶望しちゃわないかなって。僕は元々演劇出身ということもあって、「こんなにすごい演出家さんがこんな給料でこんな生活してるの?」っていうのを何人か見てしまって。だったら自分が稼いでいるのを見せたい。

tofubeats:僕らもメジャーにいるのはそれです。背負ってるまでは言わないですけど、うまく行かなかったら夢ないよなあと自分でも思っています。tofubeatsに対して河合が俯瞰してそう思ってる。

としくに:ここ20年くらいでちょっと悪いヤツが増えすぎたんですよ。会社を信用できなくなるアーティストが増えるのはそういうことでしょう。信頼関係の部分を構築できない企業家の人が増えちゃった。僕は比較的そっち側の人のこともわかる。説明の仕方を覚えるのにものすごくいろんな言葉を覚えなくちゃいけないんですよ。そもそも中抜きがなぜ起こるのかを説明することからスタートするわけです。税金の仕組みに始まって。

tofubeats:あと、法人が潰れた時って自分にすべてがかかってこないじゃないですか。多少は連帯保証は入ってるんですけど。倒産するのは会社であって俺ではない。大胆な借金経営なんかも会社だからできる。そういうのが面白いなって。楽しいですよ。所得税とか勉強すればするほど感動する。とられるのは嫌なんですけど、これを考えたヤツは凄いです。

としくに:有限責任だから法人格がいてくれれば、そっちの信用でなんとかがんばっていける。アーティスト契約とか音楽事業とは別に、日本の法人格のルールってそれなりにしっかりできてるんですよ。ちゃんとお金をいっぱい使わないと経済がまわらないようになっている。上の世代の法律家が一所懸命つくったんだろうなと。株式会社って凄い構造ですよ。

tofubeatsととしくにの未来

tofubeats:最終的に将来は商売をやりたいっていうのがちょっとあって、そのために法人格を育てておきたい。音楽は虚業なんで。モノがないから。僕は家が八百屋だったんですよ。現物商売はいいなって思うんです。めちゃくちゃ憧れがあって、楽器の並行輸入とかすごくやりたいんですよね。そこで自分がどれだけ頑張れるかが重要になるので。あと、マネジメント業界へのインパクトももうちょっと…。

としくに:マネジメントや音楽の事業だったら、2人で話してお互いの強みであるプレイヤー側と裏方側から見た視線を合わせたいですね。

tofubeats:唐突に僕が渋都市に出資して役員に参入するということもありえますからね(笑)。

としくに:余裕で受け入れますよ。法人格上で共同戦線張れる人がいるといいですよ。

tofubeats:あと、登記上ほぼ同期。「決算どないっすか?」みたいな話ができる人はとしくにさんしかいないんですよ。

としくに:上場や企業売却を見据えたベンチャーみたいにしてないのもデカくて。出資を何千万も受けて、上に経営者がいてという仕組みではなく、自分たちは自分たちだけで経営させてもらえているので。トーフとは「法人立ち上げたから社会保険証、ようやく持てたよねぇ」みたいな人間臭い話もできる(笑)。

tofubeats:ホント、協会けんぽになって、「俺、生まれて初めて硬い保険証になった」ってずっと机をトントンしていて。

としくに:その喜びが分かち合える人はtofubeatsしかいないんです。これって本当は立場が全然違うから話が噛み合わないはずなんですけどね。経営者として同期だからできる。


tofubeats

渋都市