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お坊さんたちがTwitter上で展開した「#僧衣でできるもん」アピールを考える。広く世論に訴えた「その後」はどうすればいいだろうか

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伊藤僑
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伊藤僑

Free-lance Writer / Editor 

IT、ビジネス、ライフスタイル、ガジェット関連を中心に執筆。現代用語辞典imidasでは2000年版より情報セキュリティを担当する。SE/30からのMacユーザー。

昨年末からTwitterで「#僧衣でできるもん」というハッシュタグを付けて投稿された動画が話題を集めている。

これらの動画は、僧衣を着てクルマを運転していた福井県の僧侶が「運転操作に支障をきたす衣服」であるとして反則切符を切られたことに、各地の僧侶が反発して投稿したもので、投稿された動画には、お坊さんたちが僧衣で縄跳びの二重跳びやジャグリングなどをする様子が収録されている。

お坊さんたちの多芸ぶりには、観ていてほほ笑ましさすら感じてしまうのだが、僧衣による運転の安全性アピールとしては、争点がずれてしまっているように感じる。

このような対応ミスは、ビジネス、プライベートを問わず誰もがしがちなので取り上げてみた。

福井県警によると問題だったのは「着方」だった

テレ朝newsの記事によると、福井県警が取り締まった理由は、「僧衣が一律に違反になるわけではなく、問題だったのは着方だった」ようだ。ただしこのニュースは年明け1月11日に報道されており、批判が高まる中で改めてコメントされたものである。

具体的には、くるぶし辺りまで長さのある白衣、その上に袖丈が約30センチある僧衣を着ていたが、「白衣のすそ幅が狭く、両足の太ももや膝が密着していた」、「僧衣の両袖の丈が垂れ下がっていて、レバーなどに引っかかる可能性があった」という。

これが事実だとすると、僧衣を着たことのない一般の人たちの視点では、福井県警と同様に「安全な運転操作に支障が出る恐れがあるかもしれない」と感じてしまう人もいるのではないだろうか。

これに反論するとしたら、当時の僧侶の着方を再現した状態で、なんの支障もなく運転操作を行っている様子を投稿すべきだろう。

もしくは、僧衣の着方として、「白衣のすそ幅が狭く、両足の太ももや膝が密着していた」、「僧衣の両袖の丈が垂れ下がっていて、レバーなどに引っかかる可能性があった」という状況はあくまでも例外的なもので、通常の着方では安全に操作できることをアピールした方が効果的と思われる。

有効なアピールではあるが、諸刃の剣でもある

もう一つのポイントは、福井県警が「僧衣が一律に違反になるわけではなく、問題だったのは着方だった」と、個別案件として処理している問題を、「#僧衣でできるもん」と、僧衣を着るすべての僧侶が対象となるような問題として提起し、反発してしまった点だ。

日本の冠婚葬祭において僧侶の果たすべき役割は大きく、確かに葬儀や法事に出かけるたびに僧衣を着替えていては、お盆やお彼岸などの繁忙期にはとても需要に応えることはできないだろう。

お坊さんたちがお盆やお彼岸に、僧衣のままバイクやクルマを運転して慌ただしく走り回っている様子は、日本の風物詩といえるほどに定着している。

だからこそ僧侶側からの「誰にでもわかる基準ではなく、曖昧な基準と現場警察官の裁量のみでシロかクロか決められるのは困る」という批判も納得はいくが、「#僧衣でできるもん」というアピールが成功を収め、「僧衣を着ていても安全に運転操作をすることができる」と広く周知されてしまうことは、諸刃の剣となる恐れがある。万が一、今後僧衣が原因と思われる深刻な事故が発生した際には、逆に僧衣自体の危険性を問われることになりかねないからだ。

広く世論に訴えるということは、その反動も大きいことを覚悟しなければならない。

では、どうすればよかったのだろうか。

今回の事例で言うならば、取り締まられた理由を精査して、取り締まった側、取り締まられた側の問題点を洗い出し、今後、このような問題が発生しないような予防策を講じることだろう。

例えば、警察や交通安全の専門家の知恵を借りながら、安全に運転操作のできる僧衣や、着方を開発することも考えられる。

和服での運転は禁止だが、たすき掛けなどによって袖、裾をまとめれば認めている岩手県の例も参考になるだろう。

家族の葬儀や法事でお世話になる機会が増えた筆者にとって、お坊さんたちは身近な存在。次のお坊さんたちからのアピールでは、「#安全に運転できる僧衣だもん」と、それぞれが知恵を絞った安全運転用僧衣や着方の工夫を競って欲しいものだ。