LIFE STYLE | 2018/12/25

ルールに従わない者は「敵」。日本人が気づきにくい「おもてなし」の欠点【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(9)

世界中どこでも寿司が食べられるようになったが、「本物の味」を求めてわざわざ日本を訪問する人がいる。そこで印象を分けるのは...

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世界中どこでも寿司が食べられるようになったが、「本物の味」を求めてわざわざ日本を訪問する人がいる。そこで印象を分けるのは意外と味よりもサービス。

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渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者

兵庫県生まれ。多くの職を体験し、東京で外資系医療用装具会社勤務後、香港を経て1995年よりアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)。ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。
連載:Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク日本版
洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者。

海外では今も日本人が褒められているけれど…

最近海外でブームになっている日本の酒。それを広めているのは、ローカルルールが通じない外国からの訪問者だ。

11月に訪問したルーマニアで、ワイナリーを案内してくれた男性から「日本人は、ガイドの私たちをプロとして尊敬をもって対応してくれる」、「友人のガイドから日本人団体客が使ったバスは掃除の必要がないほどキレイだと聞いた」という褒め言葉を聞いた。ルーマニアだけでなく、世界のあちこちの国で、私が日本出身だとわかると「日本はゴミが落ちていなくて清潔な国」、「電車が定刻どおりに来る」、「安全な国」などと称賛してくれる人がいる。嬉しいが、「日本すごい」と連呼するだけのバラエティ番組のような結論は出したくない。どこの国にも良いところと悪いところがある。このような場合は、日本の良いところを探して褒めてくれる人に「徳」があるとまず考えるべきだろう。褒められた部分はありがたく受け取り、後から訪れる日本人のために期待を裏切らない努力をしたいものだ。

そして、日本の良さを再確認するだけでなく、外国の人があえて口にしない日本の欠陥にも注意を払うべきだと思うのだ。

ルーマニアからアメリカの自宅に戻ってすぐ、2年ぶりに日本に帰国した。海外での暮らしが長い私は「外国人」に近い視点になっているので、日本の丁寧なサービスに改めて感動した。だが、その一方で、とても日本的な、不合理かつ不快なカスタマーサービスにも遭遇した。日本でずっと暮らしている人には見えにくいことかもしれないので、この機に指摘しておこうと思う。

融通がきかないホテルのチェックイン

外国人がよく訪問する某観光都市でのこと。夕方5時からトークイベントがあるので、私はその都市のシティホテルに午後1時半に到着した。イベントの後でホテルに戻るのが深夜を過ぎる可能性があるので、イベント前にチェックインは済ませておきたかったのだ。また、打ち合わせのために午後4時すぎには会場に来てほしいと言われていたので、そこまでかかる時間を考慮し、なるべく早く部屋で着替えて会場に向かいたかった。

ホテルの受付の女性は、私が手渡した予約情報を読んでからコンピュータで「今日から2泊ですね」と丁寧に確認した。そのうえで、「3時まではチェックインの手続きはできません」と予約情報を私に戻した。

その後、私と彼女が取り交わしたのは次のような会話だ。

「ロビーで待っていますから、掃除が終わった部屋ができたらチェックインさせていただけますか?」

「3時まではチェックインはできません」

「では、3時ちょうどにチェックインをさせていただけますか?」

「多くの方が列に並ぶでしょうから、3時にお客様の手続きができる保証はありません」

「では、最初に手続きしていただけるように3時までここで待っています」

「そこで待たれるのは困ります」

「では、どうすればいいですか?」

「3時になったら列に並んでください」

堂々巡りなので仕方なくロビーにあるトイレに行ったのだが、スーツケースを開ける場所などはなく、狭いトイレで着替えるのはアクロバットのようだった。

ホテルのチェックインの時間が3時だというのは理解できる。どの国のどのホテルでも規則は同様だ。しかし、これまで世界70カ国以上で多くのホテルを利用してきたが、どの国でもこのレベルのホテルであれば掃除が終わった部屋からチェックインを許してくれる。電話番号を教えておけば、部屋の準備ができ次第スマホのテキストメッセージで呼び出してくれるホテルもある。ここまで融通が聞かない硬直した対応をするホテルを体験したことはなかった。トリップアドバイザーの利用者コメントを見てみると、他にも多くの海外からの利用者が私と同様の体験をしたようだった。便利な場所にあるホテルだったが、ユーザーは他の潜在的利用者に「安くないホテルなのにチェックインの対応がひどい」と警告を与えていた。予約する前に読んでおくべきだったと後悔した。

そして対談場所のカフェでは

次の嫌な体験は、東京で対談の場所に指定されたカフェでのことだった。初めて会う編集者からのEメールで「(カフェから)時間厳守でと言われている。他のお客様もいらっしゃるので、早く行って待っているのも控えてほしいと言われている」という内容の指示を受け取っていた。

私は「超」がつくほどの方向音痴なので、初めての場所に行く時には迷うことを計算に入れて30分以上の余裕を持って出かける。この時もやや迷ったが、民家の合間にあるカフェに着いたのは10分以上前だった。私はカフェの他のお客さんに迷惑にならないように、店の中には入らなかった。店の入口で待つのも迷惑だろうと思ったので、道を隔てたアパートの入口あたりで時間が来るのを待つことにした。

すると、5分くらいした頃に中からエプロンをかけた男性が出てきて「1時半からの方ですか?」と声をかけてきた。「ええ、そうです」と答えたところ、この男性はいきなり「早く来ちゃだめだって言ったのに。あ〜あ、そんなところに立って……。あんた、やっちゃいけないことを2つもやっちゃって……」と陰険な口調で一方的に私を糾弾しはじめたのである。

2つの「やっちゃいけないこと」など知らない私は、「それは失礼しました」とだけ言ってその場を去った。そして念のために1時35分を過ぎてからカフェに戻った。対談の相手は素晴らしい人で、とても楽しい時間を過ごせたのだが、その前の嫌な体験とセットで記憶に残ったのは残念だった。

ローカルルールを守れない客は「敵」なのか

これらのホテルとカフェに共通するのは、彼らが編み出した独自の規則、つまり「ローカルルール」の押し付けだ。

最初のホテルで客を3時に一斉に並ばせてチェックインさせるのは、たぶんこのホテルが考えついた「人件費を最小限にできる最も効率的な方法」なのだろう。

カフェのマスターが言った「やっちゃいけないこと」が何かは公式ホームページなどにも特に記載はなく不明だが、後になって、近所から苦情を防ぐための対策ではないかと思いついた。私はメールにあったように「他のお客様」に迷惑をかけないために中に入らず、カフェの入口から離れて待っていたのだが、実はカフェが迷惑をかけるのを恐れていたのは近所の人たちだったのかもしれない。どちらにしても、それは店の立地の問題であって、何も知らない客の私を叱りつけるのは本末転倒だ。

ホテルの受付の女性とカフェの男性マスターにとっては、彼らの小さな世界をスムーズに動かしているローカルルールを妨害する客は「わがまま」であり、平和を乱す「敵」なのだろう。そう想像させるほどの敵意ある態度だった。

交友がある日本人の編集者にこれらの体験を語ったところ、彼女は「それはひどい」と同情し、「日本旅館で朝8時に朝食のために起こされるのもやめてほしい」とつけ加えた。ゆっくりくつろぐための旅なのに、朝起きる時間や食べる時間を決められたくはない、それは客のためのサービスとは言えない、というものだ。

そう考える客はほかにもいるようで、私の故郷に近い兵庫県北部の香住温泉の民宿「かどや」の主人がこの問題についてブログを書いているのをみつけた。彼は問題を率直に捉えているだけでなく、しっかりとした提案までしていて感心した。

ブログの著者は、「旅先で朝食は何時、と前日に決められるよりも朝起きてから『◯時に朝食に行こう』ってする方が休みらしくていいなって私も思います」と書いたうえで、「私が思いついた理由のほとんどが旅館側都合」と認めている。そして、少ない人数で効率良くこなす必要がある旅館のシステムの都合でフレキシブルにすることが不可能だということを丁寧に説明してくれている。

ルールを知る方法がなかったとしても、従えない者は客として尊重してもらえない

「民宿かどや」のように、カスタマーのニーズに応じたホテルや大型旅館などの選択肢を教えたうえで「うちはこのようにやっていきます」と最初からはっきりと伝えるのは良いマーケティングの例だ。これを読んで「民宿かどや」を予約するのは、民宿のニッチさを尊重するカスタマーだし、そういった人からは朝食の苦情も出ないだろう。

だが、カスタマーが不快になる場所では「民宿かどや」のような自覚がない。すべての客が自分たちのローカルルールに合わせるべきだと思っている。それは、旅館に限らず、「施設/企業/公的機関の都合に利用者が合わせる」というやり方に日本人が慣らされてきたからかもしれない。だから、たとえ不合理なルールであっても、それに従わないカスタマーのほうが「わがまま」だと捉えられる雰囲気がある。

もうひとつ思い出したのが、仕事で知り合ったイタリア人男性の体験だ。彼は大の日本びいきで、ソーシャルメディアの有名人でもある。日本の食文化をよくイタリアで紹介している彼は、京都を訪問する前に有名な割烹を予約し、そこでの食事を楽しみにしていた。ところが、店に到着すると「うちはお2人さまからでないとダメです」と門前払いされたのだ。彼が「2人分払うから」と言っても聞き入れてもらえなかったという。

これも、冒頭で語ったホテルやカフェと同じくローカルルールを押し付ける「おもてなし」だ。そのルールを客が受け入れるかぎりは、技術上は最高峰の「おもてなし」をしてもらえる。だが、たとえその人にルールを知る方法がなかったとしても、ルールに従えない者は客として尊重してもらえない

この日本流「おもてなし」は、世界での一般的なマーケティングとカスタマーサービスの考え方とは逆である。

カスタマーサービスが目指すべき本質的な取り組みとは

海外からの若者が日本らしさを体験したくて集まる、京町家を改装したゲストハウス、京都「月と」。日本の伝統を重んじながら異文化に対応する「おもてなし」。

夫と私がアメリカの中小企業のマーケティング指導をする時によく繰り返すのは、「カスタマーの持つ問題を解決してあげるのが良いマーケティング」ということだ。カスタマーが必要ないものを騙して売ることがマーケティングではない。たとえば、読書依存症で旅をよくする私は、いつも持参する本の数で悩んでいた。本は重いのでたくさんは持っていけない。でも、持っていった本が面白くないとわかった時に他に読む本がなくてがっくりしてしまう。その難しい問題を解決してくれたのがAmazonのKindleであり、「ビーチや旅に何百冊も持っていけます。これでもう旅先で読む本がなくて困ることがなくなりましたよ」と教えてくれたマーケティングであった。

カスタマーサービスもマーケティングと同様だ。「客が持つ問題を解決してあげる」のが良いカスタマーサービスである。アメリカではAmazonを含む多くのB to Cの企業が24時間対応のカスタマーサービスをしてくれる。それは「日中にはカスタマーサービスに電話する時間がない」という人の問題を解決してあげるためでもある。人数が足りなくて24時間対応できない会社でも、Eメールでの問い合わせやチャットなどクリエイティブに解決法の提案(つまり臨機応変な対応)をしてくれる。そういう会社でないと生き残れない。

私が例として挙げた日本のカスタマーサービスはその逆だ。

最初のホテルで私は「大事な仕事に遅れないように、早めにチェックインして着替えたい」という問題を相談したのだが、戻ってきたのは「チェックインは3時。並んだ順だから3時チェックインは約束できない。でも、ここに並ぶのはやめてほしい」という融通がきかない答えだけだった。このホテルの「効率が良いチェックイン」はホテルのためのものであり、カスタマーのために作られたものではない。

対談に使われたカフェは、グルメが評価するコーヒーの味で知られているようだ。だが、対談の仕事で来ている人にとっては、温かい雰囲気を提供してくれる人が淹れるインスタントコーヒーのほうがずっとありがたい。京都の割烹も、イタリアからわざわざ来てくれた人がいたら、少々規則から外れていてもできる範囲で歓待するべきだ。私がイタリアに行った時には、夕食時間よりずっと前なのに「何が出せるかわかりませんが、どうぞ」と中に招き入れて歓待してくれたレストランがあった。旅人の心に残り、「もう一度行ってみたい」と思わせるのは、洗練した味ではなく、そういった親切さだ。

「想定外」を「良い体験」に変えられる準備を

30年ほど前に住んでいた表参道でショッピングをしているのは外国人ばかりだった。

ローカルルールに加えて日本によくある問題は想定外の事態への対応だ。日本では大きな事件があるたびに「あってはならない」という表現が使われるが、その発想のためか、想定外の何かがあった時の対応策が考えられていない。どんなに綿密に計画しても、想定外のことは起こる。

撮影や対談で場所をレンタルするカフェでは、予約客が早めに到着するのは十分ありえる。そうであれば、早く来た客を怒鳴りつけるよりも、早く来てしまった客が近所に迷惑をかけずにすむような待ち合いスペースを作っておくほうが合理的な解決策だ。

ホテルでも割烹でも、想定外の出来事があった時でもカスタマーに「良い体験」をしてもらえるような対策をあらかじめ作っておくのが、本当の「おもてなし」ではないだろうか?

今回の帰国で気づいたのは、過去2年で海外からの観光客がさらに激増していることだった。いつも東京で利用しているホテルでは日本人客のほうが少なかったくらいだ。海外からの客は、日本のローカルルールなど知らないし、それに合わせようとも思わない。だから、今後どんどん想定外のことが起こっていくだろう。

「うちは日本人客だけで結構です」と態度を変えない場所もあるだろう。だが、カスタマー中心のサービスを求めるのは外国人客だけではない。日本の客も変わりつつあるし、カスタマーサービスの考え方も変わりつつある。将来のトラブルを避け、客に心から愛されるために、自分たちだけにしか通じないローカルルールと「あってはならないこと」の発想はさっさと捨てよう。

そのうえで、カスタマーの問題を解決してあげるサービスを考えてみてほしい。

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次回は1月25日頃、公開の予定です。