EVENT | 2022/04/06

トラストバンク創業者の須永氏らが新会社を設立し地方創生と経営者育成を推進。次期社長候補も公募「10〜20代も歓迎」

写真左から、ネークル代表取締役の菅原信広氏、トラストバンク代表取締役の川村憲一氏、アイナス代表取締役の須永珠代氏、UI代...

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写真左から、ネークル代表取締役の菅原信広氏、トラストバンク代表取締役の川村憲一氏、アイナス代表取締役の須永珠代氏、UI代表取締役の黒瀬啓介氏、MIZEN代表取締役の寺西俊輔氏

写真・文:神保勇揮(FINDERS編集部)

「食」「旅」「技(伝統技術)」をテーマとした3つの企業を立ち上げ・出資

国内最大級のふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を企画・運営するトラストバンクおよび、同社の創業者で現会長の須永珠代氏の個人会社(有徳合同会社)は、両社が合同出資(有徳95%、トラストバンク5%)する持株会社「AINUSホールディングス(アイナス)」を2022年4月1日に設立した。アイナスの代表取締役には須永氏が就任する。

トラストバンクは2018年に企業コンサルティングや研修事業を手掛ける株式会社チェンジにM&Aされた子会社となっており、アイナスでは須永氏がこのときに得た資金なども活用しながら新会社の立ち上げや出資を行っていくとしている。

具体的には、地域にある魅力を磨き上げ、ブランド価値を高めた商品やサービスを全国に、さらにはグローバルに提供することで地域に資金や資源が還流する仕組みをつくり、地域経済の自立と文化の継承と発展を目指す活動を行う。

アイナスは、創業第1弾の取り組みとして「食」「旅」「技(伝統技術)」をテーマとした3つの企業を立ち上げ・出資する。

「食」分野では自然栽培農家を支援するスタートアップのネークルに出資(95%)しアイナスの子会社とする。ネークルは2021年10月に山形県で設立。代表取締役の菅原信広氏は農薬・化学資材を使用しないワイン用ぶどうやりんご、桃を生産する農業法人「一家農園」の立ち上げメンバーでもある。

ネークルは自然栽培や自然農など農薬や肥料に頼らず自然の力を活かして育てた作物がより多く流通するための仕組みづくりや、栽培技術、ノウハウの提供、初期投資のかかる農業機械・器具の貸し出しなどを行い、自然栽培農家を支援する。自社の売上目標は追わず、年間1000 万円以上の売上をあげる営農者を2000 人創出することで 200 億円の市場の立ち上げを目指していくとする。

一家農園が手掛けたワインブランドの「イッカワインズ」

「旅」分野では富裕層向け宿泊施設事業を展開するUI(ユイ)を4月に設立予定。同社の代表取締役として就任するのは黒瀬啓介氏。同氏は長崎県平戸市の職員として19年勤務する中で、2012年からふるさと納税関連の業務を担当し、14年には全国初の寄附金額10億円を突破し、寄附金額日本一を達成。その後2019年に仕事の幅を全国に広げるべく退職しフリーランスとして活動していた。

UIでは、自治体が保有する土地・建物を富裕層向けの宿泊施設として提供することで、新たな観光資源の創出、自治体の歳入増加を図るビジネスを展開する。第1弾プロジェクトとしては、鹿児島県徳之島町が保有する土地を活用して富裕層向けヴィラを建設、2023年のオープンを予定している。

鹿児島県徳之島町で2023年オープン予定の富裕層向けヴィラのイメージパース

「技(伝統技術)」分野では全国の伝統技術を活用した日本発ラグジュアリーブランドのMIZEN(ミゼン)を4月に設立予定。代表取締役の寺西俊輔氏は京都大学建築学科卒業後、YOHJI YAMAMOTOに入社。以後は海外ブランドのCAROL CHRISTIAN POELL、AGONONA、Hermesなどでチーフパタンナーや3Dデザイナーなどとして勤務。2018年に日本に帰国し伝統産業の新たな価値の発信を目的として、自身のブランドであるARLNATA(アルルナータ)を立ち上げている。

MIZENはトラストバンクが有する全国各地の伝統工芸における職人との繋がりや寺西氏が有する3DCADなどのテクノロジーを活用。伝統技術を現代のライフスタイルに合わせたものづくりによって新たな価値を提唱する。製品は富裕層をターゲットに適正な金額で提供することで、職人の地位向上と、地方の経済活性化を図り、伝統産業や文化の維持・発展を目指していくとする。また、製品は受注生産にすることで廃棄と環境負荷を低減していく考えだ。

MIZENは全国各都道府県ごとに異なる伝統機織りから作り上げられたニットタイを制作。会見会場では45本の展示が行われた

各企業の資本金は1000万円。UIはアイナスによる100%出資だが、ネークルは一家農園、MIZENはARLNATAがそれぞれ5%ずつ出資している。いずれも「きちんと稼ぐ」ことを志向し、そうして得た資金を活用して地方の伝統文化や産業を守り、現地人材を育成していきたい考えだ。

これら3社による製品・サービスは販路開拓の一環としてトラストバンクの「ふるさとチョイス」限定で掲載される、ふるさと納税返礼品としていくための取り組みも並行して進めていくが、各社の当面の事業資金はアイナスからの融資でまかなっていくとしている。トラストバンクによる新事業というよりは、創業者の須永氏が関わる新プロジェクトにトラストバンクも協力している格好と言えそうだ。

また、アイナスは今後も次世代を担う若手経営者の発掘・育成を手掛けていくとしており、さらに同社の次期社長候補を10名公募する。年齢は不問で10〜20代の若き情熱家も歓迎とのこと。1000日間、須永氏と伴走するかたちで経営を学び、その後同氏は代表取締役から退く。

須永氏は記者会見で社長公募に関して「私は社長をやりたいわけではなく、社会にインパクトを与えたいのです。その方法として重要な要素の一つが、現状すごく少ない地方での起業家を増やすことだと思っています。ネークル、UI、MIZENの経営にもどんどん携わっていただきたいです」と語った。