CULTURE | 2021/10/28

コロナと移住が、竹のトイレットペーパー定期便を生んだ

聞き手・文:米田智彦
竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll(バンブーロール)」を展開する、おか...

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聞き手・文:米田智彦

竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll(バンブーロール)」を展開する、おかえり株式会社の代表・松原佳代さん。元々鎌倉に住み地元のIT企業に勤めていた松原さんはコロナ前にアメリカ・ポートランドに移住。現在バンブーロールはポートランド・長野・エストニアを拠点に活動している。コロナ禍での事業の変化やバンブーロールの今後の展望について松原さんに伺った。

松原佳代

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米国 ポートランド在住。
お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社と編集を経て2005年に面白法人カヤックに入社。ブランディング・PR・新規事業を担当。2015年に独立し、スタートアップのPR支援事業を開始。2017年よりカヤックLiving代表取締役に兼任。日本国内移住のマッチング事業「SMOUT」を立ち上げる。2019年に米国に移住。2020年よりおかえり(株)代表取締役。

移住のきっかけ。なぜポートランドに?

―― 松原さんはアメリカに移住して事業をされていますね。移住のきっかけは何だったんですか?

松原:子どもを妊娠中の7年前に「この子には海外生活の経験をしてほしい」とふと思ったんです。私は海外で暮らしたことがなかったので、子どもを留学させるんじゃなく、私も行きたかった。夫に相談したら「だったら家族で行こう」と。

私たち夫婦はIT業界で働いているので、インターネットさえ繋がればあまり働く場所にはとらわれません。最初はビザを取りやすい国を探していたんですが、夫がアメリカのグリーンカードの抽選に当たったんです。これも何かの縁だし、とポートランドへの移住を選びました。

―― ポートランドの決め手はどこだったんでしょうか?

松原:一度、10日間ぐらいポートランドで試しに暮らしてみたんですが、その時に「この街なら住める」と思えたんです。四季がはっきりあって、人が温かい。街のサイズ感はコンパクトで、都市部と自然が近い距離にあって、以前10年間住んでいた鎌倉を思わせるものがありました。

―― 鎌倉に住まれていたのはカヤック時代ですよね?

松原:そうです。移住の事業だったので、いろいろ見聞きすることがありました。そのとき心得たのは「比較をしたら決まらない」ということ。街同士の比較をしてはいけないし、今と移住後の比較をしても決まらない。決めてからいろいろ考えればいいんだと。

コロナがなかったら、リモート起業はなかった

―― せっかく移住したもののコロナ禍になって、生活や事業はどう変化しましたか?

松原:会社を作ったのも、新型コロナウイルスが流行し出してからなんです。そして、それまでやっていた会社(カヤックLiving)の代表を退任することになり、コロナ禍中にフリーになりました。

コロナ禍になって、子どもたちが在宅学習する環境になったのは、とても大きい。それに街の人とつながりにくくなったんですよ。移住して半年しか経っていないのに、街とシンクロできない。

―― 人々がフレンドリーなのがポートランドを選んだきっかけだったのに、人との接触がなくなってしまったと。

松原:一方で物理的な距離は国境が隔たれて遠くはなったけど、日本や他の国との距離は近くなったんですよ、オンラインによって。今日の取材のようにZoomなどでコミュニケーションするようになりましたよね。

コロナがなかったら、リモートで起業の発想は出てこなかったと思います。

毎日使うトイレットペーパーから環境を考えるきっかけに

―― 松原さんの事業「バンブーロール」は竹の素材を使ったトイレットペーパーですが、アイデアはどこから生まれてきたんですか?

松原:これまでも知り合いだった2人のパートナーと一緒にビジネスをやりたい思いがまずは先にありました。この人たちと何をテーマにやるか考えた時、環境というテーマが出て、いくつものアイデアの中で一番最初に形になったのがバンブーロールです。

ポートランドで暮らしていると、プラスチック・木材の代替品として家具、お箸、ストロー…意外なものでは絆創膏など、竹の製品に出合うことが多くあります。

竹のトイレットペーパーを使い始めたら意外と良くて、パートナーの二人にシェアしました。トイレットペーパーにこだわるのが面白いと思ったんです。みんな「シングル」「ダブル」ぐらいは気にするかもしれないけど、ドラッグストアでそのとき一番手頃なものを買う方が多いんじゃないでしょうか。

―― あまり何を買うか迷わないですね。

松原:トイレットペーパーは使用頻度の高い日用品なのに、無意識に消費されているところがある。しかもリユースがきかなくて、下水にすぐ流されちゃう。一方でトイレットペーパーの消費量は、日本は1人辺り世界第4位で多い。

トイレットペーパーは毎日触れるものだし、環境や持続可能なことを考えるきっかけになるだろうと考えたんです。バンブーロールを日本のご家庭にお届けして、ボトムアップ的に環境を考える活動が起こればいい、そういう思いでこの事業を始めました。今はアメリカとヨーロッパ、長野と3拠点で展開しています。

―― ヨーロッパの拠点はどこにあるんですか?

松原:エストニアです。そこに私たちのエンジニアがいるんです。

―― エストニアは電子居住プログラム登記「e-Residency」(イーレジデンシー)の取得が可能ですよね。僕も取ろうと思っているのですが、環境意識の高いヨーロッパを中心に事業を進められようとは思わなかったんですか?

松原:日本は、少なくとも今は、環境先進国じゃないですよね。ポートランドに移住してからそれに気付いたんです。日本にいた時、私も環境への意識が低かったですから。自分が日本人でもあり、より意識を持つ人が増えてほしいと日本のマーケットで始めることにしました。

―― 事業計画はどう考えられていったんですか?

松原:過去にいくつかの企業が日本で竹製のトイレットペーパーを出していましたが、私たちが開始した時期には終了していました。果たして日本でバンブーロールが受け入れられるか、確証はありませんでした。

ただアメリカなど受け入れられている先例がある。またサブスクリプションモデルにすることで、家事負担と消費量への意識など変わる点もあるだろうし「まずはやってみよう!」と。

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