CULTURE | 2021/08/07

誹謗中傷が殺到したのは東京五輪だけではない!? 切っても切れない五輪とネット炎上【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(26)

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中川淳一郎
ウェブ編集者、PRプランナー
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中川淳一郎

ウェブ編集者、PRプランナー

1997年に博報堂に入社し、CC局(コーポレートコミュニケーション局=現PR戦略局)に配属され企業のPR業務を担当。2001年に退社した後、無職、フリーライターや『TV Bros.』のフリー編集者、企業のPR業務下請け業などを経てウェブ編集者に。『NEWSポストセブン』などをはじめ、さまざまなネットニュースサイトの編集に携わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)など。

選手への誹謗中傷は、過去の五輪でも

東京五輪が盛り上がっているが、競泳400メートル個人メドレーの準決勝で優勝候補の筆頭だった瀬戸大也が“手抜き泳法”で全体の9位となり、ネットでは批判の声が殺到した。元々不倫で完全にヒールと化した瀬戸は結果的に出場した3種目で1つもメダルを取ることなく五輪を終えることになった。

また、今回は、誹謗中傷してくる人に対して「思い知ったか」と不満を漏らした体操の村上茉愛(個人総合・5位)に、批判が寄せられた。さらに、卓球混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼が「とある国から、『○ね、くたばれ、消えろ』とかめっちゃDMくるんだけど免疫ありすぎる俺の心には1ミリもダメージない」とツイート。すると、一部日本人がこれに対して「差別だ!」とキレまくる事態になっている。

過去の五輪関連の炎上で有名なのが、2010年のバンクーバー五輪・スノーボード・ハーフパイプに出場した國母和宏だ。レゲエ風のヘアスタイルとヒゲ顔で、日本選手団の公式ユニフォームをいわゆる「腰パン」で履き、シャツはズボンから出してさらにネクタイもゆるゆる状態で空港に登場。これに対してJOCと日本スキー連盟に抗議が多数寄せられた。

要するに「日本代表としてだらしない」といった批判である。その後の会見で國母は、「反省してまーす」と形式上述べ、記者からの質問には「チッ、うっせーな」と小声で愚痴ったことがマイクに拾われた。その後、以下のようなアスキーアート(文字と記号で構成する絵)が登場し、幅広く使われるようになった。

当初國母はメダル候補だったが、バッシングの影響もあったのか、8位入賞という結果に終わった。

その後、國母はソチ五輪と平昌五輪で2連続銀メダルを獲得した平野歩夢を指導した、などとして評価を上げた。だが一転、2020年1月に大麻取締法違反(輸入)などで逮捕され、再び評価を落とした。その際も上記の件が取りざたされた。やはり一度の炎上は忘れられないのである。

あと、國母の炎上については、日本のネットの陰湿系書き込み者特有の嫌悪感もあったかもしれない。それは、國母の「ドレッドヘア」「ヒップホップ風ルックス」「ピアス」「タトゥー」というものは、日本のネット界隈では徹底的に叩かれる存在なのだ。5ちゃんねるでは、タトゥー関連ニュースのスレッドでは、こんなことが書かれ、徹底的に糾弾される。たとえば、ボクシングの試合で井岡一翔のタトゥーが問題視されたニュースなどである。

・消せないの分かってて後で消そうとするヤツはバカ

・若気の至りで入れるなんてバカ

・ファッションだとかいってやるが、日本では極道の象徴。ここは海外ではない

・威圧感を与えようとしている時点でパス

・銭湯や温泉に行けないのに入れるのはバカ

・それでいて「差別だ」と主張するんだよな。最初から分かってるだろうに

こんな感じの罵詈雑言が続くが、國母は件の「腰パン」「チッうっせーな」以外の件でも徹底的に叩かれ続けられる、五輪炎上史では稀代の人物になってしまった。ただ、本当に大麻の件さえなければ「名伯楽」の評判が維持できたかもしれないのが残念である。

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