CULTURE | 2020/12/09

社会問題化する高齢者の自動車事故をAIで解決!「U-22プログラミング・コンテスト2020 最終審査会」レポート

文:岩見旦
22歳以下を対象としたITエンジニアの頂点を決定する「U-22プログラミング・コンテスト」の最終審査会が1...

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文:岩見旦

22歳以下を対象としたITエンジニアの頂点を決定する「U-22プログラミング・コンテスト」の最終審査会が11月29日に開催された。

同コンテストは、IT人材の発掘・育成を目的に、1980年から経済産業省主催としてスタートした作品提出型のプログラミング・コンテストで、2014年の民間移行後も、コンテスト趣旨に賛同する協賛企業支援のもと開催を継続。今年は41回目にあたる。

エントリー348作品(応募者総数1,201名)のうち、事前審査、一次審査を通過した16作品が最終審査会に登場。毎年最終審査会は10月開催として、応募者が都内会場に一同に集い、プレゼンテーションを行ってきたが、今年は新型コロナウイルスの影響により、当初のスケジュールが変更され、オンラインプレゼンテーションにて実施された。

眼球運動を用いた運転能力測定で、納得した免許自主返納へ

「経済産業大臣賞」(総合)に輝いたのは、東京医科大学の西村太雅さん、野田都里人さんによる「AIを用いた自動車運転能力測定装置」。

近年、高齢者による自動車事故が社会問題化しているが、現在の運転能力判定方法には改善の余地があると指摘。運転能力を医学的な観点で再定義する必要があると考え、眼球運動を測定する装置を開発した。

被験者は装置内部のディスプレイを覗き、表示された点を目で追う。その際の眼球を赤外線カメラで撮影し、画像を瞳孔検出システムに入力。AI解析システムに通すことで、運転能力を段階的に判定する。

ディスプレイの明暗を変化させたり、背景に移動する指標を登場させたり、点を高速で移動させたりし、その反応から脳の加齢、集中力欠如、反射速度・認知機能の低下などが判断できるという。今後の展望としては、免許を取り上げるのではなく、納得した自主返納へ展開させたいとした。

質疑応答では、審査員から「私のように自動車保険、生命保険を扱っている会社からからすると非常に関心が高く、何らかのカタチで提携したい。感銘を受けた」と絶賛が相次いだ。

受賞を受け、「今後はさらに小型化して、スマホなどで気軽に測定できるようにしたい」(西村)、「脳出血や脳梗塞など重大疾患や事故後の外傷の把握などに役立てられるよう、研究を進められるように考えている」(野田)と語り、喜びをにじませた。

点字翻訳ソフト、3密チェックアプリ、楽譜変換アプリも受賞

「経済大臣産業賞」(プロダクト)を受賞したのは、守山市立速野小学校の越智晃瑛さんによる「点体望遠鏡」。入力した文字をリアルタイムで点字に翻訳できるパソコンソフトで、点字にしたものを紙に印刷したり、3Dプリンタに出力できるファイルを作成したりすることも可能。

小学3年生の時に点字に興味を持った越智さんは、小学4年生から誰でも簡単に点字に翻訳できること、点字の面白さをアピールできることを目標に開発をスタート。いくつかの作品を経て、今回にたどり着いた。

小学生とは思えない技術の高さに、審査員から驚きの声も上がった。また、3年前の同コンテストで、越智さんが点字に関する作品を展示していたのを見たという思い出話も飛び出し、一貫して同じテーマに取り組んでいたことが伺える。

「経済大臣産業賞」(テクノロジー)を受賞したのは、愛知工業大学情報電子専門学校の坂井田逸斗さんによる「3密チェッカー」。新型コロナウイルスの集中感染が起きる環境である密閉・密閉・密集をチェックするアプリである。GPSとマイク、Bluetoothを使用し、移動速度や周囲の音量、Bluetooth端末数などのデータから3密の状態を判定。手動だけでなく、アプリを起動していなくても15分ごとに自動で測定する。最大21日分のデータが記録でき、後から確認することで予防に役立てることが可能だ。厚生労働省の接触確認アプリ「COCOA」とともに使うことで万全の対策ができるとした。

審査員からは、「難しい課題を困難にぶつかりながら工夫したところが素晴らしい」と好評を得た。まだまだ続くコロナ禍に力を発揮するだろう。

「経済大臣産業賞」(アイデア)を受賞したのは、富士市立富士南中学校の鶴田慈貴さんによる「deepMusa」。楽譜をアップロードすることで、簡単に音楽に変換してくれるウェブアプリだ。吹奏楽部でクラリネットを担当している鶴田さんは、楽譜編集ソフトで一つ一つ音符を入力し、音を確認していたが、これは非常に手間と時間が掛かっていた。当時読んでいたディープラーニングの本がきっかけで、機械学習に興味を持ち始めた鶴田さん。すでに楽譜を音にする論文があったが、精度が良くなかったため、自身で開発したという。

苦労した点として、楽譜の記号があまりに小さすぎて、検出するのが難しかったところをあげた。鶴田さんは、楽譜を6分割してそれぞれ検出し、一つにまとめるというアイデアにたどり着いた。「前処理をしっかりして機械学習に掛けるというところの筋がいい」と評価され、また実用化に向けての期待の声があがった。

経済産業大臣賞を受賞した4人には、副賞として50万円が贈呈。筧捷彦審査員長(東京通信大学 教授/早稲田大学 名誉教授)は、総評として「若い世代の人がたくさん参加し、素晴らしいアイデアと力量を発揮してくれた。今後とも上の世代の人を乗り越え、どんどんと力を発揮し、日本全体を押し上げてくれることを期待したい」と述べた。同コンテストは来年も開催されることが決定しており、詳細は4月に公開される予定。


U-22 プログラミング・コンテスト2020

※「AIを用いた自動車運転能力測定装置」で活用された技術は東京医科大学から特許登録が行われています。