CULTURE | 2020/11/12

「ついに時代が来た」千鳥。低視聴率でもオファーが絶えない理由【連載】テレビの窓から(1)

イラスト:IKUMA

木村隆志
コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者
「忖度なし」のスタンスで各媒体に毎...

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イラスト:IKUMA

木村隆志

コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者

「忖度なし」のスタンスで各媒体に毎月20本超のコラムを寄稿するほか、テレビ・ウェブ・雑誌などにメディア出演し、制作現場への情報提供もしている。人間関係コンサルタントやタレント専門インタビュアーとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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今秋3つの冠番組がプライム帯に進出

「今最も勢いのある芸人コンビ」「一番キャスティングしたい芸人」

「ロケの上手さは断トツ」「ついに彼らの時代が来た」

民放各局、どこへ行っても、そんな千鳥を称える声が聞こえてくる。好感度No.1の座はサンドウィッチマンに譲っても、笑いの手数では決して負けないのが彼らの強みだ。

とりわけ今秋の充実ぶりは目を引く。まず昨春にスタートし、深夜帯に放送されていた冠番組「テレビ千鳥」(テレビ朝日系)が早くも日曜22時台のプライムタイムに進出。さらに、ネタ番組「千鳥のクセが凄いネタGP」(フジテレビ系)、ノブがMCを務める「ノブナカなんなん?」(テレビ朝日系)がスタートした。

いずれも冠番組であり、プライムタイムで放送されていることが彼らの躍進を物語っている。もちろん「いろはに千鳥」(テレビ埼玉ほか)、「相席食堂」(ABC・テレビ朝日系)、「華丸大吉&千鳥のテッパンいただきます!」(関西テレビ・フジテレビ系)、「クイズ!THE違和感」(TBS系)、ノブ単独で出演している「ぐるぐるナインティナイン」(日本テレビ系)、「突撃!カネオくん」(NHK)などのレギュラー番組も健在だ。

今や芸能界トップクラスの売れっ子となった千鳥だが、かつて「M-1グランプリ」(ABC・テレビ朝日系)の決勝で2年連続最下位に沈んでしまったほか、途中からレギュラー参加した「ピカルの定理」(フジテレビ系)がわずか5か月間で終了してしまうなど、その道のりは順風満帆だったとは言い難い。

それどころか、「ブレイクした」というタイミングがわかりづらく、現在まで高視聴率を獲得した番組がほとんどないにもかかわらず、なぜ現在のポジションにたどり着けたのだろうか。

「ロケ上手」で得られる最大のメリット

千鳥の強みが語られるとき、枕詞のように発せられるのが「ロケの強さ」。彼らは、どんな場所へ行っても、そこでどんな人物やモノを相手にしても、即興のトークで笑いにつなげられる。そのことは間違いなく、もはや業界内の常識となっている。

ここで笑いのボリューム以上に重要なのは、コスパのよさ。ロケならスタジオが不要であり、2人のトークで回せるからゲストは最小限でよく、「いろはに千鳥」「テレビ千鳥」を見たことがなる人なら、何となくコスパのよさがわかるのではないか。2人だけのロケでレギュラー番組を成立させ、それなりのアベレージで笑いを取れる芸人は、極めて希少価値が高いのだ。

また、「どこでも、どんな人物でもOK」である以上、バリエーションは無限大でネタ切れがなく、「長く続けていける」という点も彼らの強みとなっている。元々ロケに限らず千鳥の出演番組は、彼らが醸し出すゆるいムードと同じように、「見ても見なくても、どちらでもいい」「特に得られるものはない」という薄いテーマ性のものが多い。だからこそスタッフが作りやすく、視聴者が見やすいなど、毎週放送されるレギュラー番組としては好都合なのだろう。

「どちらでもいい」「特に得られるものはない」という番組の中で千鳥は、一定の笑いをテンポよく取っていくのみで、無理に大笑いを狙いにいかない自然体の姿を見せている。野球にたとえると、「常にフルスイングで何試合かに1本ホームランが出る」スラッガーではなく、「すべての試合でヒットを打てる」アベレージヒッターに見えるのだ。

ただ、そのヒットも「さすがの芸人」と思わせるクリーンヒットだけでなく、「下ネタかよ」「スベリ笑いじゃん」というボテボテの内野安打も少なくない。決して安打製造機という天才肌のイメージはなく、そんな人間臭さも愛される理由の1つではないか。

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