LIFE STYLE | 2020/10/21

コロナ禍でも116兆円を投資!世界を変える欧州グリーン・ディールの本気度【連載】オランダ発スロージャーナリズム(29)

欧州委員会の公式サイトより
10 月半ばの欧州はどっぷり新型コロナ第二波となっています。直近の日本の感染者数は毎日3桁...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

欧州委員会の公式サイトより

10 月半ばの欧州はどっぷり新型コロナ第二波となっています。直近の日本の感染者数は毎日3桁台ですが、欧州では文字通り桁違いです。フランスなどでは多い時に1日に1万人を超える感染者、総人口が1700万人のオランダでも毎日数千人規模で新規感染者が発生しており、連日、最多感染者数を更新。その数は第一波の頃を優に超えており、もうまったく終息の気配は見えません。オランダでは10月14日から再びの部分的なロックダウンに入っています。

そんなこんなで、今年はすでに残り2カ月余りではありますが、完全に新型コロナの年だったと言えるでしょう。

そのため、なかなかご紹介する機会を逸してしまっていたのですが、実は昨年末に欧州では、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長率いる新体制の欧州委員会が発足しています。欧州委員会とはEUの行政執行機関で、この新欧州委員会発足前から大きな注目を集めていたのが、新委員長が目玉政策と位置付けていた「欧州グリーン・ディール」です。

「欧州グリーン・ディール」とは、2030年に向けた EU 気候目標の引き上げや、それに伴う関連規制の見直しなどの行動計画を取りまとめたものです。EUとしては2050年に、温室効果ガス排出が実質ゼロとなる 「気候中立」を達成するという目標を掲げていますが、それに向けての環境政策であると同時に、エネルギー、産業、運輸、生物多様性、農業など広範な政策分野を対象とした欧州経済社会の構造転換を図る包括的な新経済成長戦略なのです。

簡単に言うと、欧州の新しい環境政策であり経済成長戦略なのです。

新型コロナを経て、というか真っ只中ではありますが、改めてこのグリーン・ディールの重要性が増してきています。

ということで、今回はこのグリーン・ディールに基づき、具体的に欧州ではどんな動きがあるのか?ということを紹介したいと思います。きっと、この動きは今後世界に波及していくものです。日本の皆さんに先取りしてお知らせします。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

今後10年で1兆ユーロを投資し、雇用創出とイノベーションを促進

それでは、改めてグリーン・ディールについて簡単にご紹介します。

2019年12月1日、EU史上初の女性委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエン氏率いる新欧州委員会が誕生しました。日本的には師走の忙しい時期。そして、今振り返ると翌20年の年明けにはイギリスのBrexitが正式に決まり、新型コロナがアジアを席巻。さらに、日本では旧正月のタイミングを迎えて、「中国からの観光客を規制しないのか?」とか、横浜港に入港したクルーズ船から新型コロナ患者が続出したりと、もう連日の大パニックでした。そして、ステイホームが推奨されて、学校も会社も行かずに家に籠っている間に、あっという間に夏へという感じではなかったでしょうか。

そんな慌ただしい昨年末から今年の頭にかけて、この新欧州委員会は発足していたのです。ちなみにドイツ出身の初の女性委員長を筆頭に、全委員27人中女性が12人と過去最多です。

そしてフォン・デア・ライエン委員長は、「持続可能な政策にコミットし、地政学的な課題に取り組む委員会」にすると宣言しており、6つの優先課題を掲げています。その中で最重要課題とされているのが、2050年までにEU域内の温室効果ガス排出をゼロにするという、この「欧州グリーン・ディール」で、今後10年のうちに官民で少なくとも1兆ユーロ(約116兆円)規模の投資を行う計画です。

2050年までにEUの温室効果ガス排出を0にするというは、つまりEUを世界で初めての「気候中立な大陸(Climate-neutral Continent)」にするという意味でもあり、当然、こうした分野で世界をリードしていくということを目指しています。

「経済や生産・消費活動を地球と調和させ、人々のために機能させることで、温室効果ガス排出量の削減に努める一方、雇用創出とイノベーション促進する」ということを謳っており、大きな投資を伴う、各産業でドラスティックな改革が行われるようとしています。

これが今の欧州の基本方針なのです。温室効果ガス排出に関しては、SDGsを旗印に各企業、各個人が頑張ろうとしている日本とはちょっと違うと思いませんか? 別にどっちが良いか、悪いかという意味ではないのですが、「結構、違う」ということは分かると思います。

新しい産業やシステムにシフトする時、やはり旧来の産業やシステムとはバッティングしてしまうことも多いと思います。その時に、基本的にはなんらかのインセンティブがないと、シフトしにくいでしょう。そこで欧州は、ここを経済成長とリンクさせると言っており1兆ユーロもの投資を行うと明言しています。

こうしたこと背景に、欧州ではいろいろと新しい動きが現れています。そこで次に、こうしたことを背景に、あるいは追い風に起きているオランダでの様々な試みを紹介します。

次ページ:生産者ではなく「生活者」を改革する新ビジネスが続々誕生


next