CULTURE | 2020/07/20

止まらないSNS中傷、被害者バッシング…「被害者意識」の暴走が産む加害の連鎖を断ち切るには DVや性暴力の支援に携わってきた信田さよ子さんに聞く

SNS上での誹謗中傷による被害を受けている人々の報道が目立つようになってきた。
プロレスラーの木村花さんが『テラスハウ...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

SNS上での誹謗中傷による被害を受けている人々の報道が目立つようになってきた。

プロレスラーの木村花さんが『テラスハウス』出演の際、甚大なバッシングを受け最終的に自死を選んでしまったニュースは記憶に新しい。また、ジャーナリストの伊藤詩織さんは自らに向けられた罵詈雑言について、内容を精査し、東京地裁に提訴すると発表した。

この他にも、性被害を訴えた女性、差別を訴えた外国人などに対して「被害に遭ったのはお前にも非があったからだろう」と言わんばかりの不条理なバッシングが数多く存在する。

なぜ人々は、弱い立場の他者を攻撃せずにいられないのか。また被害を受けた時、まずは何をすべきなのか。

原宿カウンセリングセンターの所長として、DVや性暴力の加害者臨床と被害者支援の現場に長年携わってきた信田さよ子さんに、「被害の認識」「被害者意識」をキーワードに語ってもらった。

聞き手・文:張江浩司

当人が訴えても認識されない「被害」と「加害」

『被害と加害をとらえなおす』では、虐待、DV、薬物依存を生きのびた女性と、家族問題に詳しい臨床心理士、自助グループを実践する精神保健福祉士が、暴力の知られざる影響、当事者が経験を分かち合うことの希望を語っている

ーー 信田さんの著書『被害と加害をとらえなおす: 虐待について語るということ』(共著/春秋社)を読んで衝撃だったのは、つい最近まで女性の被害の告白が全く受け入れられなかったということでした。1990年ごろの日本心理臨床学会シンポジウムで、父親から娘への性虐待を報告したら「それは彼女のファンタジー(空想)じゃないですか」と言われてしまったという。たった30年前のことですし、未だに「女性は被害を語りづらい」のだろうなと感じます。

信田:被害者自身でも「これはこういう名前の被害だ」と認識できていないことも多いですし、「こういうことがあった」と話しても信じてもらえる可能性は未だに2~3割ぐらいです。通勤電車で痴漢されたと言っても「あなたに隙があったんじゃないの?」と笑われてしまう構造があるんです。

現在ではさすがになくなってきましたが、痴漢で捕まった犯人に対して警察官が「あなた風俗に行ったことないでしょ。もっとそういうところで遊べばいいのに」と平気で言う。「男にはそういう性欲があるから、女性は我慢しなければいけない」と長い間思われてきたんです。

「これはしょうがないことではなく、被害と加害の問題なんだ」と捉え方に変化が訪れたのは、80年代の終わりぐらいから。「これも立派な被害である」という考え方自体が非常に新しいものなんです。

ーー そもそも、「被害」とも「加害」とも言われてこなかったということですね。

信田:「電車で女性のお尻を触る男」と、「それを嫌だと感じた女性」という存在があっても、それを痴漢という性暴力と捉えるか、「隙があっただけ」と言うだけか、言葉の使い方次第で印象がものすごく変わってしまうわけです。

伊藤詩織さんが誹謗中傷に晒されてしまうのも、あの事件を性暴力による被害として捉えておらず、「ああいう偉い人と飲みに行って仕事の相談をするなら、ホテルに行くぐらい覚悟しろ」と本気で思っている人が多いからです。

ーー 女性からのバッシングも多かったのも印象的でした。「同じ立場の女性として応援しなければ」とはならないのでしょうか。

信田:「自分が被害者側であると認めること」自体が非常に屈辱的ですし辛いんです。それを避けるために、「それは甘えだ」「男を利用することだってあるだろう」といった男性の視線を内面化した女性たちは多い。自民党の杉田水脈さんなんかまさにそうですよね。

ーー 「自分は弱くてはいけない」、「被害者ぶってはいけない」といった抑圧は男性も晒されてきたのではないでしょうか。

信田:男性の方がその傾向は強いですね。私達のセンターでは年間、新規だけで650人ぐらいの方がカウンセリングに来談されるんですが、性別・年齢別で集計すると、圧倒的に女性が多いです。今でも70~80%は女性。それだけ男性は助けを求められないということです。

ただ、世代別にみると20~40代前半ぐらいまでは男女が半々なんですよ。若い男性は援助を求めることに抵抗があったとしても「それでもこの辛さをどうにかしたい」と思う人が増えているんだと思います。

ーー 女性は逆に「強く物申してはいけない」という抑圧が未だにあるように思えます。伊藤詩織さんをはじめ女性が主体的に声をあげることで状況は変化していっているのでしょうか?

信田:フラワーデモやMeToo運動など、状況を変えようとする女性は近年どんどん増えています。一方、抑圧的な環境に身を置いて、被害に遭ったり搾取されたりしているにも関わらず「私自身がこの状況を選んだ」と話す女性もいる。女性の主体性についての意見がねじれてしまっているんです。

私たちがカウンセリングをしていても「こんなの被害だと言っていいんですか?」とためらう人はたくさんいますが、「れっきとした被害です」と言ってあげるのが自分の仕事なので断言するようにしています。

「被害を認識できないと加害者になってしまう」という連鎖

ーー 被害を自覚するというのは思った以上に大変なことなんですね。

信田:東日本大震災でも「家が流されたぐらいで自分は被害者と言っていいのか、隣の人は家族が何人も亡くなってしまっているのに」と抱え込んでしまう人がたくさんいました。

でもそうした自然災害と違って、DVや性暴力などには人間の加害者がいます。そうした人と戦うのが重い、辛いと言う人もたくさんいるんです。

特にDVの場合、自分を被害者だと認識すると、家族が加害者になるわけです。自分が寄って立つ日常の捉え方が180度変わってしまう。そのことだけでも辛い気持ちになってしまうものです。それもあって「これはDVじゃない、自分は被害者じゃない」と思い込んでしまう傾向が少なくないです。

また、少年院に収監される未成年の少なくとも半数近くが虐待被害者と言われています。でも多くの少年たちが自分を被害者だと思っておらず、「オレがガキの頃は親も家にいないし食費ももらえなかったから大変でさあ」と虐待のエピソードを笑い話、武勇伝のように語ってしまう。それを被害と捉えるということは先ほども言ったように自分の生きてきた世界の認識を180度変えてしまい、自分自身を否定することにもつながりかねない。

とはいえ、自分一人だけで認識を変えるのは難しいのでカウンセラーが味方になったり、同じような経験をした仲間がいるということが重要になります。

ーー 「正しく被害を認識できないと、いずれ加害者になってしまう」ということも著書でおっしゃっています。

信田:父のDVを見て育った(それは心理的虐待です)男の子にすごく多いです。先ほども話が出ましたが、「男は強くなきゃいけない」ということが根底的なジェンダー意識にあると、お父さんがお母さんや自分を殴るのは「酷い」じゃなくて「強い」という捉え方になってしまい、母の「被害」父の「加害」も認識できないんです。それが続くと、周囲に暴力を振るう子に成長してしまう可能性があります。被害者が加害者に反転してしまうんです。

ーー ただ、「被害を認識すること」と、「被害者意識を持つこと」は全く違うんですね。

前者は「私は『してはいけないこと』をされた。それは私の責任ではない」と自覚すること、後者は「私が辛いのは・期待通りにならないのは、私ではなく○○のせいだ」と思ってしまうことです。

ーー なるほど。確かに最近は「被害者意識」をベースに他者を攻撃してしまっている人が増えているような気がします。先日、徳島で男性が女子高生に「家に来ないか」などと声をかけ、「キモい」と返されると激高し暴行した事件がありました。これに対し、女子高生の言葉遣いをバッシングする書き込みがSNSで目立ちましたよね。

信田:「キモいと言った方が暴力的だ」というのは言語道断です。そもそも成人男性が女子高生をナンパするという行為自体が暴力性を孕んでいます。

ーー 擁護する気は全くないんですが、女子高生をバッシングしていたのは比較的若い男性が多かったんじゃないかという気もしています。学生時代にいわゆる「イケてるグループの女性」からキモいと言われて傷ついた経験のある男性は今でも結構いると思っています。そうした中で「加害者の少なくない割合が別の暴力の被害者だった」という話を聞くと、まさにこの構造だな…と合点がいくところがありました。

信田:「自分はそういう風に言われて本当に辛かった」「でも本当は女性から受け入れられたいんだ」というように、「被害を認識」する考え方の道筋を立てるのではなく、「自分ばっかりこういうことを言われるのは、あいつらが悪いんだ」という「被害者意識」だけが募っていくという流れは社会全体に蔓延していると思います。

強さとは「助けを求められること」

ーー 「被害者意識に基づく加害」の連鎖を断ち切るためにはどうすれば良いのでしょうか?

信田:SNS上でたった一人きりで発言し、不特定多数に対峙するというのは絶対に止めた方がいいと思います。とにかく顔の見える友人やコミュニティを作る。SNSよりもある程度個々人の顔の見えるオンラインのサークル、オンラインよりもリアル空間のコミュニティの方が良いです。

根本的な解決は難しいですが、歯止めにはなります。私はカウンセラーですが、「人の心の本質を理解しなくてはいけない」とは全く思っていません。とりあえず2~3日でも、誰も被害者にならず加害者にもならない状況を作るには、という緊急対応ができるかどうかを考えています。それを積み重ねていくだけです。

ーー 今はまだ認識されていない被害と加害も、そのうち可視化されていくんでしょうか。

信田:例えば、家庭での性暴力の加害者は「相手は嫌がっていないと思っていた」と思う人が大半なんです。そもそも悪いことをしているとも思っていない。最初にお話しした痴漢の件もそうなんです。

大変なことではあるんですが、被害者が訴え出ないと加害者は絶対に見えてこないです。被害者から突き上がられることで、社会全体でもそこに「被害と加害」の関係があることがわかりますし、加害者自身、嫌々であってもそれに気が付くことができます。時間はかかりますが、根気強く声を上げていくしかない。

ーー やはり、「自分の被害を正しく認識すること」に尽きるんですね。SNSでタレントなどに匿名の誹謗中傷がワッと集まるときに「バッシングは有名税みたいなもの」と自ら言う人もいますが、自分の被害にフタをしてるということになります。それを続けるうちに、どこかのタイミングで心が折れてしまいますよね。

信田:人のメンタルというのは、誰しもそんなに強くないんですよ。強さというのは「早めに助けを求めた方がいい」ということを知っているかということです。でも残念ながら長年被害に遭ってきた人は「どうせ誰も助けてくれない」という思いがあるから抱え込んでしまう悪循環にある。

もし「健全な育ち」というものがあるとしたら、「大変な思いをしても、世の中にきっと誰か助けてくれる人がいる」ということを信じられる環境を指すんだと思います。この記事を読むことで「私も声を上げていいんだ」と思ってもらうことが第一歩であり、そのバックアップができればと思っています。


【お知らせ】
FINDERSでは現在、今後の企画制作の参考とするため読者アンケートを実施しております。
5分ほどで回答できますので、ぜひご回答ください。
回答は↓のバナーをクリックしてください。