LIFE STYLE | 2020/04/22

ベルリン発の都市型農場スタートアップ「Infarm」がこの夏、日本初上陸!世界のテクノロジーと知恵がつながる欧州最大級のテックイベント「TOAワールドツアー東京」開催

世界的に新型コロナウイルスの影響が押し寄せ始めた矢先の今年2月。政治や意識、ヘルスケアなどのあらゆる領域で世界を変える日...

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世界的に新型コロナウイルスの影響が押し寄せ始めた矢先の今年2月。政治や意識、ヘルスケアなどのあらゆる領域で世界を変える日欧のイノベーターが一同に会す、ドイツ発のテックカンファレンス「TOA(Tech Open Air)ワールドツアー東京」が開催された。

欧州におけるスタートアップの聖地と言われるベルリンを筆頭に、ロサンゼルスやニューヨークなどの世界各都市にネットワークが広がるTOAワールドツアー。

東京で語られた、先進的でイノベーティブな内容をレポートしたい。

取材・文:FINDERS編集部 写真:松島徹

ベルリン発「TOAワールドツアー」ファウンダーが緊急来日!

冒頭で「TOAワールドツアー東京」の責任者であるインフォバーンCVO小林弘人氏の挨拶後に登場したのは、「TOAワールドツアー」ファウンダー、ニコラス・ヴォイシュニック氏。

改めてヴォイシュニック氏が述べたのは、TOAの開催意義について。TOAは、あらゆるジャンルを越えたイノベーターたちが集まり、そこからさらにイノベーションが起きるハブとなる場として、本国ドイツ・ベルリンで始動。

2016年以降は、ロサンゼルスやニューヨーク、東京などの世界各都市にも輪を広げて開催され、TOAファミリーと呼ばれるネットワークができつつあるという。

「地球が今後の未来に耐え得るために、あらゆる技術を持ち寄り、グローバルでの協力が必要」と語る「TOAワールドツアー」ファウンダー、ニコラス・ヴォイシュニック氏。

参加者の3分の1はスタートアップ、それ以外は政府機関や学校、投資家、クリエイターなどが集まるTOA。

スタートアップの先進的な取り組みに、多くの投資が集まるなど、回を重ねるごとにグローバルな成果を得ているという。

未来の住宅を体現! 移動式住宅ユニットを提案するベルリン発「Cabin One」

また、当日は、ベルリンからの有力スタートアップとして、Cabin Oneの共同創業者でCEOのサイモン・ベッカー氏が登壇。

Cabin Oneの共同創業者でCEOのサイモン・ベッカー氏。

建築家でもあるベッカー氏は、世界中を移動するモバイルワーカーがたくさんいる中で、“究極のグローバルモビリティ”を突き詰めた結果、誕生した、タイニーハウスの特長を生かした移動式住宅ユニットについて語る。

「モバイルワークが可能な今、Airbnbなども登場し、住宅や宿泊先の概念が変わり、フレキシブルな住宅が台頭してきました。不動産は一旦建てれば100年は持ちますが、モノとしても資産としても重量級で、現代のビジネスモデルには相反します。建築計画も一から始めなければならず、非効率。依存しない住宅のあり方を追究した結果、生まれたのが移動式住宅ユニットでした」

しかもCabin Oneが提供する住宅は、トイレやキッチンをはじめ、ミニマルで高級な家具が揃い、空調設備や食洗機、コーヒーメーカーが付いたフル機能のスマートエコ住宅。

カスタムではなく、工場で組み立ててクレーンで設置場所に運び、10〜12日で設置が完了するという。

今後は、住宅を注文するプロセスもテクノロジーを駆使し、住宅装備には最新の技術を取り入れながら常にアップデートしていくと語るベッカー氏。

「森の中で仕事したり、都市に戻ってきたりするなど、従来の住宅ではできなかったフレキシブルなライフスタイルの実現を目指します。設置場所については、都市部の未使用の屋根の下や湖のほとりなどの隙間的なスペースを有効活用。ここからコミュニティを醸成し、食事の提供が受けられるといったサービスも展開していきたいです」

現在、欧州を中心に展開するCabin Oneだが、日本からのオファーも熱烈歓迎しているとのことだ。

最注目のドイツ・ベルリンの都市型農場スタートアップ「Infarm」に日本企業も熱視線

今夏、日本進出が決定しているのは、ベルリンの都市型農場スタートアップ「Infarm」。組み立て式の都市型農業プラットフォームを提供し、顧客のニーズに合わせてカスタマイズや移動が可能で、都会でスピーディーに新鮮な農作物を提供できるのが特長だ。

ビジネスの背景には、特に都市部に集中する生活スタイルをはじめ、世界規模の食料供給や飢餓問題がある。

まずは冒頭で、CEOのエレズ・ガロンスカ氏が登壇し、これまでの野菜の流通や食料問題について述べた。

Infarm CEOのエレズ・ガロンスカ氏。

「地球の食料には限りがあり、70億人の胃を満たすのに十分な土地が足りず、地球が2つないと間に合わない計算です。特に都市に人が集中する中で、流通経路を経てようやく食卓にたどり着きますが、その前に野菜の鮮度が落ちたり、化学薬品で汚染されたりするだけでなく、破棄されることもあります」

65種類以上の葉物野菜が作れるInfarmだが、新しい都市型農場のビジョンを次のように語るガロンスカ氏。

「科学者やエンジニア、マーケッター、医師などと力を合わせて、食に革命を起こします。欧州や欧米ではすでに、マーサースペンサー、カルフールといった大手小売業者とも手を組んでいて、たとえば、殺虫剤不使用やオンラインでの展開など、パーソナライズされた独自の商品を提供しています。今後は、ミニトマトや根菜、きのこもなどの野菜にも手を広げ、行く行くは個人が農場を持つサポートをしていきたいです」

すでに欧州全土をはじめ、アメリカなどでも展開するInfarmだが、今後、2022年までに100都市で展開するビジョンを掲げる。この夏、日本進出にあたって投資を表明しているJR東日本の担当者は、次のように同社を評価する。

「今年の夏にInfarmと提携し、スマート栽培ユニットの導入を決定しました。地に足のついた研究によって築かれた垂直農法を取り入れ、国内の農業後継者問題や自給率の改善にも期待しています。しかも、野菜の味もよく、安定供給できて、環境にもやさしい。地産地消の新たなスタイルとして、社会課題に貢献していきたい」

また、首都圏に約30店舗を構える紀伊国屋もInfarmの導入を決定。今後の展開について担当者が意欲を語った。

「これまでセルフショップタイプのスーパーとして展開し、ベーカリーストアを導入するなどの画期的な試みをしてきた紀伊国屋が、今年で100周年を迎えるにあたり、Infarmを導入します。お客様に店内で作った野菜を目で見て楽しんでいただき、安心安全、新鮮でおいしい野菜を提供できることを嬉しく思っています。Infarmとともに、より一層魅力的な店舗を作っていきたいです」

欧州スタートアップの聖地・ベルリンで得たものは?

イベント中盤で、「TOAワールドツアー」ファウンダー、ニコラス・ヴォイシュニック氏をファシリテーターに、Cabin OneのCEOサイモン・ベッカー氏、Infarm CEOのエレズ・ガロンスカ氏を交えてトークが展開された。

東京への印象をはじめ、ベルリンのスタートアップ事情について本音トークが語られた。

ヴォイシュニック氏(TOA):勤勉で休暇を取らない日本人がなぜ長寿命なのか、実に不思議です(笑)。でも、完璧を追求するスタンスが方々で見受けられることに、その秘訣があるのかもしれません。その点、ベルリンは欧州の中でもとりわけ存在感があります。エコシステムとしてはいかがですか?

ガロンスカ氏(Infarm):スタートアップを立ち上げてから、かなりバタついていましたが、実験や研究をするにはベルリンはいいところです。現場に放り投げても、ベルリンでは失敗も許容してくれる風土があります。ベルリンがなければ今のInfarmはなかったと思います。

日本の文化は美的感覚という意味でも本当に魅力的。実はInfarmを立ち上げた当初、よく日本に来ていて、農業を取り巻く観光をリサーチし、多くの学びがありました。そこから派生する美しさに多くの価値を感じました。

ベッカー氏(Cabin One):ベルリンに関しては、カオスですね(笑)。そのカオスの中に心地よさがあります。無造作だけど、多様性を重んじる文化があって、ベルリンはまさにブランド。実際、投資家にベルリンの話をするととても受けがいいんです。ベルリンのおかげで、急ピッチで拡大することができました。


同イベント後のドイツでは、新型コロナウイルスの感染者が急増し、中小企業支援策としていち早く総額500億ユーロ(約6兆円)が拠出されたことでも話題となった。

InfarmやCabin Oneの創業者たちが語るように、エコシステムが働き、スタートアップへの支援が手厚いベルリンで事業を拡大できた経緯が伺えた。

今後もFINDERSでは、「TOAワールドツアー東京」から派生する、イノベーションの“台風の目”をお伝えしていきたい。


TOAワールドツアー東京