EVENT | 2019/07/03

「万引き防止のため書店で顔認証データ取得」は是か非か。プライバシー意識の高い国では懸念が高まるが、中国のように積極活用する国も

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伊藤僑
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伊藤僑

Free-lance Writer / Editor 

IT、ビジネス、ライフスタイル、ガジェット関連を中心に執筆。現代用語辞典imidasでは2000年版より情報セキュリティを担当する。SE/30からのMacユーザー。著書に「ビジネスマンの今さら聞けないネットセキュリティ〜パソコンで失敗しないための39の鉄則〜」(ダイヤモンド社)などがある。

渋谷の3書店が万引き防止目的で顔認証用データを共有

近年、顔認証技術の導入が日本でも進んでいる。中でも効果が高いとされるのが、防犯目的の活用だ。

6月28日には、「丸善ジュンク堂」、「啓文堂書店」、「大盛堂書店」の3書店が、万引き被害を未然に防ぐために、防犯カメラで撮影した「万引きをしたとみられる人物」の顔認証用画像データを共有することを発表した。実施されるのは東京・渋谷の3店舗で、共有開始は7月30日から。

新たに導入されるシステムでは、現行犯で逮捕(7月30日以降)された人や、防犯カメラ画像などによって盗んだことが確実と見込まれる人の情報(顔画像、特徴、日時、被害状況)を共有。各店舗は、顔認証によって当該人が入店した際に、店員らに注意を促すアラートが出るようにしている。

実は、顔認証を万引き防止に活用する事例はすでに珍しくなく、丸善ジュンク堂でも以前から採用していた。今回の発表が注目を集めたのは、民間企業が防犯カメラの画像を他社と共有することが初めてだったからだ。

これまでも3店舗では、年間100人程度の万引きを疑われる人物が確認されており、その被害は経営にも深刻な影響を与えていたようだ。万引きのような犯罪では、同一地域の複数店舗が標的とされることが少なくない。そのため、1社のみでの対策には限界があったという。

同発表に対しSNS上では警戒感を示す反応も

とはいえ、店舗への顔認証技術の導入を快く思わない人も少なくない。特に書店における行動は、思想信条に関する情報を含むだけに、同発表に対して警戒感を示す反応がSNS上でも散見された。

あらゆる場所に設けられた監視カメラと顔認証システムを組み合わせることによって、個々人の行動が追跡される。ジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984』で描かれたような監視社会の到来を危惧している人は少なくないだろう。

特に、今回の発表のように、民間企業が防犯カメラの画像を他社と共有することは、個人情報保護の観点からも慎重に行わねばならない。

個人情報を第三者に提供することは、個人情報保護法でも事前に利用目的を公表することを定めている。そのため3店舗では、店頭などで情報の共有を告知するほか、苦情などはNPO法人「全国万引犯罪防止機構」で受け付け、一定期間が経過した情報は削除される。

サンフランシスコでは公共機関に顔認証の使用を禁止

顔認証に対して懸念を表明する声は、日本以外でも拡がっている。

5月14日(現地時間)には、米サンフランシスコ市監理委員会(市議会に相当する)が公共機関に顔認証技術の使用を禁止する条例案を可決した。これは、米国の市でも初めてのことだという。同条例案によって、同市の交通当局や法執行機関は今後、顔認証技術を使うことが出来なくなる。

決議に際しては、防犯目的の利用が出来なくなれば市民の安全が脅かされるとの反対意見もあったようだ。しかし、現在の顔認証技術は信頼性が低く、市民のプライバシーや自由を不当に侵害するという意見が過半数を占め、同条例案は可決された。

中国では犯罪者検挙や顔認証決済など国家規模で積極活用

サンフランシスコとは対照的に、顔認証を国家規模で積極的に活用しているのが中国だ。

中国警察当局によると、政府が支援するスタートアップの「クラウドウォーク・テクノロジー(広州雲従信息科技)」(広州市)のAIを使った顔認証技術は、犯罪者1万人の逮捕に貢献したという。

中国における顔認証の活用は、防犯や犯罪者の検挙目的だけではない。

QRコードに代わる次世代決済手段として、すでに「顔認証決済」の導入も始まっている。最も有名なのは、中国KFCが導入した「smile to pay」だろう。アリババグループの運営するモバイル決済サービス「AirPAY」アカウントに顔情報をヒモ付けることで、顔認証決済を利用できる。

その他にも、鉄道改札システムへの活用や、金融商品を販売する際の融資審査などにも顔認証の利用が拡大。このような顔認証システムの積極活用により、中国の顔認証技術は急速に進歩している。

米国商務省傘下の米国立標準技術研究所が実施している顔認証技術のテストプログラム(60社以上が参加)においても中国企業は優勢で、上位6位を、中国企業とロシア企業が占めている。トップの成績を収めたのは、上海を拠点とするスタートアップ「YITUテック(上海依図網絡科技)」だ。

プライバシーへの危機意識が高く、顔認証の導入を慎重に行わねばならない国では顔認証技術が育ちにくいようだ。だが、国民の監視を強める国家主導の開発には懸念もある。個人情報保護を重視した認証システムを実現するためには、プライバシー意識の高い国々の企業にも技術開発を頑張ってもらいたいものだ。