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「忍耐こそ強さ」というマッチョ理論と「無理をしない勇気」を持つ働き方
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  • 2019.06.28
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「忍耐こそ強さ」というマッチョ理論と「無理をしない勇気」を持つ働き方

この記事はZing!2019年3月15日に公開された記事を転載しています。

吉川ばんび

1991年生まれのフリーライター。若者の働き方について多数のメディアで執筆活動を行う。取材・インタビュー・コラム・エッセイなど幅広く活躍中。

「忍耐こそが強さだ。辛い今を耐えて乗り越えた者だけが成功する。甘えるな、耐えろ」

どうですか、私がこの世で最も嫌いな考え方なんですが、おぞましいと思いませんか。いや、こういう考え方が合っている人も実際にはいますし、こんな風に日々上司から叱咤激励されて目をキラキラ輝かせる人もいると思うんです。そういう人たちを特にどうこう言うつもりはないんですけど、問題なのは、他人にまでこの「マッチョ理論」を押し付けてくる輩たちがいる、そして私のようにメンタルが豆腐でできている人間がその被害に遭っている事実であって。

最近ではこういう押し付けマッチョが現れるたび「バカの思想」「脳筋」「うるせえな、あっちでプロテイン飲んでろ!!!」(個人の見解です)と門前払いができるまでにたくましくなった私ですが、数年前まではそうではありませんでした。どちらかというと「そうだよね、辛い環境から逃げるなんてやっぱり甘えだよね……」と思ってしまうタイプだったと記憶しています。

「最終目標」を設定することの大切さ

どこかで刷り込まれた「忍耐はいいことだ」「逃げることは悪いことだ」「会社をすぐに辞めるのは甘えだ」という言葉たち。会社員時代、毎月増えて行く残業時間。やりたくもない業務内容。そして少しずつ現れる心身の不調を見て見ぬふりして、自分を追い込んでガチガチに縛り付けていたものの正体は、まさに自分の頭の中にあった「マッチョ理論」だったのでした。今思い返すと、毎日吐き気と腹痛に悩まされフラフラで倒れそうになりながら、本当にギリギリの状態にもかかわらず、なぜか脳みそだけはマッチョのままだったわけです。

冷静になって考えてみると、労働者の全員が「忍耐は善である」という考え方を信じなくちゃいけないみたいな文化は、もはや今の時代にはまったく即していない、負の遺産みたいなものなんじゃないかと思うのです。私が働いていた会社で長年働いているおじさんたちの中には、もちろん立派な役職についている人も中にはいました。けれども、毎日機嫌の悪そうな顔でふてぶてしく業務をこなし、常にイライラしている彼らの様子を見ると「果たして、彼らは『成功』したのだろうか?」という点において、どうしてもそうは思えなかったのです。彼らが常にむっつりした様子でいた理由は、私にも容易に理解できました。役職に就いているとはいえ、実質の役職手当は1万円だけで、それにもかかわらず業務内容は平社員と同等、もしくは負担が大きく、さらに何かあったときの責任は重い。こんな状況では「役職に就かずに平社員として働いていた方がいくらかマシだ」、と思うのは自然な流れとも言えるでしょう。

じゃあ何が成功なのか、という話をするとそれは人それぞれで、「企業で役職に就くこと」がゴールだと思っている人にとってはこれは「成功」だろうし、例えば「自分が生き生きと働ける環境にいたい」と思う人にとっては「失敗」なわけです。だからこそ私は「マッチョ理論」を盲信する前に、まずは「ゴールは人によって違うのだ」ということを、今一度理解しなければならないと思うのです。

「どこを最終目標に設定するか」によって、私たちの取るべき行動というものは大きく変わります。もし自分が企業に長く勤めて役職に就き、出世すること・もしくは成長してから同じ業種で希望する企業へ転職をすることを目標にしているのだとすれば、ほんの少し無理をしていたとしても、乗り越える価値は十分にあるのだと思います。しかし、目標がそうでないとするならば。これから40年働かないといけないとして、今の仕事を続けて得られるものはなんなのか。それは一時的にお金を稼ぐためと割り切って次のステップに進むための準備期間なのか、それともただ「逃げたら負けだ」と思っていて、辛くても必死に耐えているだけなのか。

自分を見つめ直してみて、もし「マッチョ理論」にとらわれているだけなのだとしたら、「ちょっと待った」とストップをかけてみてほしいのです。

無理をしない勇気

私がよく話す言葉に「無理をしない勇気」というものがあります。今の社会ではまだまだ「忍耐=立派だ」という認識が一般的なのかもしれませんが、そんな風潮の中でこれに逆らうこと、例えば辛くなって仕事を辞めること、休職すること、しばらく何もしない期間を作ること。こちらを決断する方が、はるかに勇気がいることだと思いませんか。

「無理をしない決断をする」までには、たくさんの障壁があります。将来への不安、会社への罪悪感、後ろめたさ、社会のレールから外れてしまうのではないかという焦燥感。「精神的・肉体的に追い込まれた人は思考力が落ちてしまう」というのは私が常々お話ししてきたことでもありますが、参ってしまっているときほど、人は「現状維持」を選びがちです。実際に私が会社を辞める決断をするまでにも、さまざまな葛藤により、かなりの時間と精神力を要しました。

さらに、自分がどういう状況に陥っているのかを把握するまでには、会社を辞めるかどうか悩んだ時間と比べると、およそ3〜4倍ほどかかったと思います。私の場合は色々な本を探して読んだり、心療内科に通ったりしてようやく自分が正常な状態ではないこと、これまで通りの働き方や、みんなと同じような働き方ができないことを理解しました。また「どういう働き方が自分にとって負担になるのか?」をとことん考えた結果、「やりたくないことをやること」「体が弱いので、毎日決まった時間の出社が難しいこと」が最も無理を強いている原因であることが分かりました。

自分のことを理解して、弱点を受け入れてからは、仕事に対しての考え方が大きく変わりました。これまでのようなマッチョな脳みそではなく、もっと柔軟で、自分用にオーダーメイドされた脳みそに変わったことで、ふっと肩の力が抜けたような気持ちになれたのです。

自分の能力を最大発揮できる場所を見つけること

会社を辞めたり休んだりすることは決して「逃げ」なんかではありません。

むしろ、自分の安全圏で戦うことを選ぶのは、非常に理にかなっていることだと思うのです。自分を分析して、弱点を知り、強みを知り、能力を最大限に発揮できる場所を探すこと。これからの時代、社会で長く働くうえで必要とされるのは、ただただ「忍耐」することではなく、こうしたスキルの方なのではないでしょうか。

自分の心と体は、自分で守らないといけません。そのためにはまず「自分を知り、無理をしない勇気を持つ」ことは絶対不可欠の要素だと思うのです。


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